セッション情報 専修医発表(卒後3-5年)

タイトル 専57:

多彩な病態を呈し治療に苦慮した膵炎の1例

演者 久能 志津香(福岡大学消化器内科)
共同演者 岩下 英之(福岡大学消化器内科), 阿南 章(福岡大学消化器内科), 四本 かおる(福岡大学消化器内科), 福永 篤志(福岡大学消化器内科), 櫻井 邦俊(福岡大学消化器内科), 平野 玄竜(福岡大学消化器内科), 上田 秀一(福岡大学消化器内科), 森原 大輔(福岡大学消化器内科), 横山 圭二(福岡大学消化器内科), 西澤 新也(福岡大学消化器内科), 竹山 康章(福岡大学消化器内科), 坂本 雅晴(福岡大学消化器内科), 入江 真(福岡大学消化器内科), 岩田 郁(福岡大学消化器内科), 釈迦堂 敏(福岡大学消化器内科), 早田 哲郎(福岡大学消化器内科), 眞栄城 兼清(福岡大学消化器外科), 向坂 彰太郎(福岡大学消化器内科)
抄録 症例は34歳、女性。思春期より薬物使用歴とアルコール多飲歴あり。数年前よりアルコール性膵炎、門脈血栓症、アルコール性大腿骨頭壊死で近医に入退院を繰り返していた。2009年5月に慢性膵炎急性増悪、難治性腹水の診断で当科紹介入院となった。膵酵素、炎症反応の上昇を認め、腹部CTにて以前より指摘されている門脈血栓と多量の腹水を認め、膵体部の膵仮性嚢胞と肝内に多発する嚢胞性病変を認めた。入院後より絶飲食、抗生剤の投与、蛋白分解酵素阻害剤の投与、腹水コントロールを行いながら経過観察していたが膵仮性嚢胞の縮小は認めなかった。6月8日の腹部エコーで膵仮性嚢胞内の出血が疑われ、造影CTで脾動脈仮性動脈瘤破裂と診断しTAEを行った。その後も膵仮性嚢胞の縮小はみられず、7月6日にERCPを行ったところ膵管との交通が疑われたため膵管ステントを留置した。その後も膵炎の増悪を認めたが、継続加療により徐々に仮性嚢胞の縮小を認め、9月末より経口摂取を開始した。10月26日に膵管ステントを抜去したが以降も膵炎の増悪はみられなかった。入院時より認めていた肝内の嚢胞性病変は、試験穿刺やドレナージ術は行わなかったが、膵炎の沈静化とともに徐々に縮小した。膵炎に伴う胆管周囲への炎症の波及や、初回ERCP施行時に十二指腸乳頭部の浮腫が著明であったことから、肝内の嚢胞性病変は胆汁排泄の低下による胆汁性嚢胞(biloma)の可能性が示唆された。また、反復する膵炎発作の炎症が脾動脈へ波及することにより仮性動脈瘤を形成し、さらに、脾静脈血流のうっ滞や血管内皮損傷から血栓を形成し、炎症を繰り返すことで門脈血栓へと発展、門脈圧亢進症を発症したと考えられた。経過中には真菌血症、真菌性眼内炎、股部真菌症も発症したため長期間の抗真菌薬の投与も必要であった。膵炎の沈静化と全身状態の改善を認めたため 11月11日に他院へ転院となった。患者の社会的背景や多彩な病態のために治療に苦慮した1例を経験したので報告する。
索引用語 慢性膵炎, 仮性嚢胞