抄録 |
症例は75歳、女性。2009年10月に前医で直腸癌の診断で高位前方切除を施行された。術後病理診断は中分化腺癌pSS, ly0, v3, pN0, sH0, sP0, cM0, fStageIIであった。術後無治療で経過観察されていたが、術後4ヶ月の腹部CTで門脈塞栓を認め精査加療目的に当院に紹介受診された。精査を行ったところ、腹部CT、MRI、血管造影下CTで門脈前区域から右本幹にのびる造影効果のある塞栓を認め門脈腫瘍栓と診断した。明らかな肝実質内の腫瘍は認めず、原発巣ははっきりしなかったが、腫瘍栓は増大傾向であり、肝右葉切除、門脈腫瘍栓摘出・再建術を施行した。摘出標本の肉眼所見でも肝実質内には腫瘍は認めず、門脈前区域から右本幹まで占める腫瘍栓を認めるのみであった。病理診断では篩状構造を主体とする中分化管状腺癌が壊死を伴いながら増生している。腫瘍は門脈内で増生しており、微少浸潤はみられるが肝実質内への転移を示唆する腫瘍成分はみられなかった。免疫組織染色検査の結果、CK7陰性、CK20陽性であり、既往の直腸癌からの門脈腫瘍栓と考えられた。前医の切除標本を確認し、免疫組織染色検査まで行ったが同様のパターンを呈し、直腸癌の門脈腫瘍栓と診断した。術後mFOLFOX6による補助療法を施行中であり、現在のところ術後半年無再発で経過している。大腸癌肝転移において門脈腫瘍栓を伴う頻度は原発性肝癌と比較して稀である。とりわけ肝実質内に転移巣を認めない門脈腫瘍栓は非常に稀と考えられ、文献的考察も含め報告する。 |