セッション情報 シンポジウム1「慢性膵炎をめぐる諸問題-病態・診断・治療まで-」

タイトル S1-03:

慢性膵炎から発症する膵癌の臨床像

演者 古川 正幸(国立病院機構九州がんセンター 消化器肝胆膵内科)
共同演者 植田 圭二郎(国立病院機構九州がんセンター 消化器肝胆膵内科), 船越 顕博(国立病院機構九州がんセンター 消化器肝胆膵内科)
抄録 【背景】慢性膵炎は、膵癌発症の危険因子とされ、診断10年後には、1.8%、20年後には、4.0%の症例に膵癌が発症すると報告されている。ところが、日々の臨床の中で、慢性膵炎症例の経過を観察していて、そこから膵癌が診断される機会は、必ずしも多くはないのではないかと思われる。当院でも、2000年1月から2010年8月までの間に受診された膵癌患者は582名であったが、そのうち、慢性膵炎から膵癌が発症した症例は、僅かに4例であった。この4例の臨床像を検討し、慢性膵炎において膵癌を出来るだけ早く診断する可能性について言及したい。【方法】2000~2010年に、当院を受診された慢性膵炎から膵癌が発症した4例について、年齢、性別、家族歴、飲酒歴、喫煙歴、糖尿病の有無、膵石灰化の有無、膵炎発症から膵癌発症までの期間、膵癌の初発症状、BMI、占拠部位、臨床病期、治療法、生存期間について検討した。【結果】年齢中央値は64歳(59~73)で、4例とも男性であった。膵癌の家族歴がある者が1例(25%)で、何らかの癌の家族歴がある者は2例(50%)であった。飲酒歴は2例(50%)、喫煙歴は3例(75%)、糖尿病は1例(25%)に認められ、膵石は1例も認められなかった。膵炎発症から膵癌発症までの期間は7年3ヶ月(3年5ヶ月~19年10ヶ月)、膵癌の初発症状はすべて腹痛であった。BMIの平均値は19.2(17.8~20.8)、癌の占拠部位は、頭部1例(25%)、体尾部3例(75%)であった。1例がStageIVb、2例がStageIVa、1例がStageIIであった。StageIVb の症例には化学療法が、StageIVa の症例には化学放射線療法が選択された。StageIIの症例は、ERCPによる擦過細胞診がClassIIIbで体尾部切除が行われ、治癒切除が可能であったが、術後1年11ヶ月後に、CT検査、PET検査、腫瘍マーカー等で、残膵に癌の再発が認められた。4例の生存期間中央値は、580.5日(434~958)であった。【結論】慢性膵炎から発症する膵癌は、その診断時点で、進行例が多く、早期診断は、困難と思われるが、症例によっては、ERCPによる膵液細胞診やFDG-PET検査が有用であると考えられる。
索引用語 膵癌, 危険因子