抄録 |
膵全体にわたる脂肪置換の1例 独立行政法人 国立病院機構 小倉医療センター消化器内科 橋本理沙、澄井俊彦、山口裕也、山縣元、牧坂教俊今回我々は、膵全体にわたる脂肪置換の症例を経験したので報告する。【症例】72歳女性。2010年春に近医で上部消化管内視鏡検査にて胃粘膜下腫瘍を指摘。精査の腹部造影CTで膵全体の脂肪置換と膵実質の萎縮を認め、当院紹介受診となった。《家族歴・既往歴》特記事項なし《生活歴》飲酒・喫煙歴 なし。便通異常なし。《理学的所見》148cm、49Kg、BMI 22.3 。結膜に貧血黄疸なし、胸腹部異常なし。《検査成績》末梢血検査、血清の肝胆道系酵素は正常範囲。空腹時:AMY 57 IU/l、エラスターゼ1 12 ng/dl,食後:AMY50 IU/l, エラスターゼ1 10 ng/dl以下,リパーゼ 3 IU/l,トリプシン 38 ng/ml以下。FBG 109 mg/dl, HbA1c 6.2 %,T.P 5.9 g/dl, Alb 3.8 g/dl T-chol 167mg/dl, TG 74mg/dl。CEA ,CA19-9は正常範囲。アルギニン負荷試験(ATT)ではIRG (pg/ml)は頂値400(20分)でΔIRG=268であった。IRIの反応も良好であった。《MRI》脂肪抑制T1W1で膵実質の著明な萎縮と膵全体の脂肪浸潤認めた。明らかな腫瘤は認めない。MRCPで膵管系の異常はない。《臨床経過》現在まで臨床症状や内分泌機能増悪はなく、腫瘍マーカーの上昇や画像検査で腫瘍は認めない。【考案】明らかな栄養障害は認めないが、空腹時、食後ともに膵酵素の低下を認め、膵外分泌機能障害が疑われる。膵内分泌機能は、HbA1cの軽度上昇が見られたが、ATTではB細胞,A細胞の機能は保持されていた。膵の脂肪置換を生じる疾患として、膵脂肪肉腫などの腫瘤性病変の他に銅欠乏症やShwachman-Diamond 症候群などが鑑別に挙がるが、本症例では否定的で、原因は特定できていない。【結語】非常にまれな膵脂肪置換の1例を報告した。 |