抄録 |
血清中の遊離脂肪酸濃度上昇と肝細胞アポトーシスはNASHの特徴である。パルミチン酸やステアリン酸に代表される飽和脂肪酸は、小胞体(ER)ストレス誘導し、ミトコンドリア上のBax活性化を介して肝細胞にアポトーシスを引き起こす。一方、オレイン酸やパルミトレイン酸などの不飽和飽和脂肪酸は細胞保護作用があることが知られているが、その詳細なメカニズムについては知られていない部分が多い。我々は飽和脂肪酸による肝細胞アポトーシスに不飽和脂肪酸がどのように作用するかについて検討した。【方法】ヒト肝細胞癌株Huh-7, Hep3B, HepG2, 遊離ヒト肝細胞を用いた。使用した脂肪酸の濃度は200uM~800uMであった。アポトーシスはDAPI染色で評価された。ERストレスマーカー(CHOP, GADD34)はreal time PCRで測定された。Bax活性は蛍光染色を用いて検討した。細胞内脂肪蓄積についてはNile red染色で検討した。 【結果】飽和脂肪酸治療により各種肝細胞株にアポトーシスが誘導されたが、同量の不飽和脂肪酸とともに刺激すると、細胞死はほぼ完全に抑制された。また各種小胞体ストレスマーカーの誘導も不飽和脂肪酸 (オレイン酸、パルミトレイン酸)により抑制された。しかし、一般的なER stress inducer であるTunicamycinによるアポトーシスは不飽和脂肪酸では抑制されなかった。またTNF-related apoptosis-inducing ligandによる細胞死も抑制しなかったため、不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸によるアポトーシスシグナルを特異的に抑制していると考えられた。不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸によるBaxの活性化も抑制した。一方で不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸による細胞内脂肪蓄積については抑制せず、むしろ促進した。In vitroにおいは不飽和脂肪酸による中性脂肪合成促進が肝細胞内での毒性抑制の一因と推察された。【結論】不飽和脂肪酸はERストレスとBax活性の抑制を介して、飽和脂肪酸による肝細胞アポトーシスからレスキューする。体内の不飽和脂肪酸濃度の調節がNASH治療に有用である可能性が示唆された。 |