セッション情報 専修医発表(卒後3-5年迄)

タイトル 専52:

早期の抗ウイルス療法併用により救命し得た潜在性B型肝炎の再活性化による急性肝不全の1例

演者 國本 英雄(福岡大学消化器内科)
共同演者 森原 大輔(福岡大学消化器内科), 土屋 直壮(福岡大学消化器内科), 四本 かおる(福岡大学消化器内科), 櫻井 邦俊(福岡大学消化器内科), 田中 崇(福岡大学消化器内科), 平野 玄竜(福岡大学消化器内科), 横山 圭二(福岡大学消化器内科), 西澤 新也(福岡大学消化器内科), 竹山 康章(福岡大学消化器内科), 入江 真(福岡大学消化器内科), 岩田 郁(福岡大学消化器内科), 釈迦堂 敏(福岡大学消化器内科), 早田 哲郎(福岡大学消化器内科), 向坂 彰太郎(福岡大学消化器内科)
抄録 症例は60歳男性。2011年11月に悪性リンパ腫(Diffuse large B cell type)と診断され、同年12月に近医にてR-CHOP療法を開始された。化学療法開始前にはHBs抗原陰性を確認されていた。2012年2月R-CHOP療法4コース目終了後より肝逸脱酵素の上昇を指摘されていた。同年3月より全身倦怠感の症状が著明となり、肝予備能の低下もみられたため、当院当科に紹介され緊急入院となった。既往歴として学童期より精神発達遅滞があり、長年施設に入所されていた。輸血の既往はなかった。当院入院時は精神発達遅滞のため肝性脳症の有無の評価は困難であったが、羽ばたき振戦は認めなかった。血液検査ではプロトロンビン活性 72%、AST 1165 IU/L、ALT 956 IU/L、T-Bil 0.9 mg/dl、NH3 43 μg/dlであった。さらに、HBs抗原陽性、HBs抗体陽性、HBe抗原陰性、HBe抗体陽性、HBc抗体陽性、HBV-DNA定量 8.4 logcopy/ml、HBVゲノタイプB、HBV-DNAプレコア変異、コアプロモーター変異を認めた。以上より、潜在性B型肝炎の再活性化と診断した。入院後直ちに抗ウイルス療法(エンテカビル0.5 mg/日、インターフェロン-β 300万単位/日)およびステロイド療法(プレドニン 70 mg/日)を開始した。治療開始後、一旦肝逸脱酵素は改善傾向となったが、入院10日目の血液検査でプロトロンビン活性 39%、AST 834 IU/L、ALT 1387 IU/Lと悪化を認めた。このため、昏睡型急性肝不全に至る可能性が懸念され、エンテカビル1.0 mg/日、インターフェロン-β 600万単位/日にそれぞれ増量し、また免疫抑制薬(アザチオプリン)の投与も併せて開始した。その結果、肝予備能および肝逸脱酵素は改善し、入院57日目に退院となった。なお、肝生検は精神発達遅滞のため同意が得られず、施行できなかった。潜在性B型肝炎の再活性化例において、昏睡型急性肝不全に至った場合、死亡率は100%と言われている。本症例は抗ウイルス薬や免疫抑制薬などの集学的治療によって、昏睡型急性肝不全に至るのを阻止し、救命し得た貴重な症例であると考えられた。
索引用語 潜在性B型肝炎, 再活性化