抄録 |
動脈塞栓術にて治療し得た, 左胃大網動脈瘤破裂の1例【はじめに】左胃大網動脈瘤は稀な疾患であり, 破裂例では外科的手術となる例が多い. 今回,腹部血管造影下CTで診断し, 動脈塞栓術で治療し得た,左胃大網動脈瘤破裂の1例を経験した.【症例】60歳, 女性. 【既往歴】特記すべきことなし.【現病歴,経過】自転車で転倒後, 腹痛を認め救急外来受診し, 便秘の診断にて帰宅. 1週間後に再度腹痛, 嘔吐あり来院. 来院時,血圧114/81mmHg, HR 60回/分, SpO2 99%, 体温35.7℃. 腹部は左中腹部から左側腹部にかけて緊満,圧痛, 反跳痛を認めた. 採血ではWBC 4050/μl, Hb 6.9g/dl, CRP 6.7mg/dlと貧血, 炎症反応の上昇を認めた. 腹部造影CT検査では, 横隔膜下から脾臓周囲に血性を疑う腹水と, 脾門部に13mm大の濃染される腫瘤を認めた. 腹水試験穿刺では,血性腹水を認めたため, 動脈瘤破裂による腹腔内出血が疑われ,診断治療目的にて腹部血管造影下CTを施行した. 脾動脈(SPA)からの造影下CTで左胃大網動脈(LGEA)に13mm大の動脈瘤を認め, 明らかな造影剤の血管外漏出は不明だったが, 腹腔内出血は動脈瘤破裂によるものと診断.マイクロカテーテルをSPAからLGEAに挿入し,金属コイルにて塞栓術を施行した. 動脈塞栓術後,腹痛は軽快し, 貧血の進行もなく,1週間後の腹部造影CTで血性腹水は減少を認め, 経過良好で第15病日に退院となった. 退院後の腹部造影CTでも再出血は認めていない.【考察】左胃大網動脈瘤は稀で, そのほとんどが破裂を契機に診断され,動脈硬化や外傷が原因となる.本例は外傷が原因と考えられるが, 破裂例の多くは外科的手術が行われている.本例はSPAよりLGEAにマイクロカテーテルの挿入が可能であり, また脾動脈から動脈瘤までの距離があり,脾動脈自体の塞栓は避けられると考え,金属コイルによる塞栓術を行い, 止血が得られた. 左胃大網動脈瘤破裂は,血管造影検査にて診断が可能で, 動脈塞栓術が速やかに行えれば, 有用な治療法となり得ると思われる. |