セッション情報 一般演題

タイトル 056:

術中内視鏡で確定診断できず小腸部分切除術を実施した小腸アニサキス症の1例

演者 栗本 拓也(名古屋共立病院 消化器化学療法科)
共同演者 矢野 雅彦(名古屋共立病院 消化器内科), 寺下 幸夫(名古屋共立病院 外科), 森 洋一郎(名古屋共立病院 外科)
抄録 【症例】47歳男性
【既往歴】特記事項なし
【現病歴】朝食で生イカを摂取したところ、昼より強い下腹部痛を間歇的に自覚するようになったため外来を受診した。来院時のバイタルサインは正常範囲内であったが、左下腹部に圧痛を認めた。造影CTでは痛みの部位に一致した骨盤内小腸の限局的な壁肥厚と、口側腸管の拡張を認めた。また造影効果が不良な腸管は認めなかったが、骨盤内には少量の腹水が貯留していた。採血では白血球と好酸球の増多を認めた。問診や身体所見・臨床検査結果から小腸アニサキス症の可能性を考慮しつつ、原因の特定できない急性腹症の診断で緊急入院となった。
【経過】虚血性変化を伴う小腸イレウスの可能性が否定できず、入院同日に緊急手術を実施した。腹腔鏡で観察すると、一部空腸で約20cmにわたる発赤や浮腫状変化を認めた。傍臍部の約4cmの切開部より小腸を体外に出し、病変部から口側に約10cm離れた正常腸管部に約2cmの小切開をくわえ、通常経口内視鏡を挿入し内腔を観察した。粘膜は浮腫状で点状の発赤が散在していたが、特に周囲発赤が強い小びらんを1ヶ所認め、この部分は触診で硬結として確認することができた。当初想定していたアニサキス虫体は確認できず診断を確定できなかったため、病変部を中心とした約50cmの小腸部分切除術を行った。術後の経過は良好で、術後4日目に退院となった。病理検査では、粘膜下層に刺入した線虫と著明な好酸球浸潤を認めた。さらに採血にて、手術翌日は陰性であった抗アニサキス抗体が術後6週間後に陽性化したことを確認し、最終的に小腸アニサキス症と診断した。
【考察】小腸アニサキス症の発症初期に診断を確定することは困難であり、過去の報告でも緊急手術を実施されることが多かった。しかし腸切除の必要性については複数の意見があり、腸切除を行う前に術中内視鏡での観察や虫体摘出を試みることは、低侵襲な治療法として一考の価値があると思われる。
索引用語 アニサキス, 急性腹症