抄録 |
CART(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)とは腹水症(胸水症を含む)患者の腹水(又は胸水)採取後に濾過、濃縮し患者に再静注する治療法である。当科では2009年7月よりCARTを導入し、2012年8月現在で21症例に施行した。内2症例を提示する。【症例1】2011年5月心窩部痛を主訴に当院受診。腹部CTで膵尾部腫瘍、門脈浸潤と多発肝転移と診断(病勢からもERCP細胞診は未施行)。化学療法導入目的で5月31日入院。初診時腫瘍マーカーはCEA52.2、CA19-9 8444と高値であり、軽度の低栄養と貧血、肝胆道系酵素の上昇(T-Bil1.58,AST 72,ALT 69,γ-GTP 713)も認めた。その後GEM(1800mg/day)を開始し、3クール目の効果判定CTではSDと判断。腫瘍マーカーも改善傾向(CEA 34,CA19-9 3485)であったため、GEM継続したが、2011年9月の外来受診時に腹水貯留とAlb低下を認めた。腹水穿刺での細胞診は陰性であり、門脈本幹閉塞による腹水貯留を疑った。その後利尿剤でも腹水コントロール困難であったため、同月よりCARTを導入し計11回施行。CART併用後はAlb台で推移し、併せてGEMも継続したが、2011年11月中旬頃から癌性疼痛が出現し緩和医療へ移行。その後急速に肝腎不全が進行し12月永眠。【症例2】2010年他院での上腹部痛精査CTで膵腫瘍を指摘、精査目的で同年7月に当院紹介。各種画像精査(造影CT,MRCP,ERCP)より膵頭部(T4N1M0,stage4a)と診断され、7月22日入院。初回血液検査ではCA19-9 1025と上昇以外は有意所見なし。入院後GEM(1200mg/body)を開始したが、2回目投与時に薬疹出現あり中止、TS-1(80mg/body)へ変更するもCA19-9上昇を認めPDと判断。3rd lineとしてDTXを試みたが、開始2ヶ月後に疼痛の増強があり中止、疼痛緩和目的で放射線照射を施行。以後は緩和医療へ移行し、2011年11月には腹水貯留も認めたため、2011年12月27日CART導入。疼痛コントロールを行いながら、4ヶ月間で計17回施行したが、2012年5月初旬に全身の衰弱が進行し永眠。【総括】CARTは患者への侵襲も少なく比較的安全な方法であり、低Alb血症と自覚症状(腹満感)の改善に効果的であると考えられる。 |