抄録 |
【症例】56歳、男性〈主訴〉脂の浮く軟便(2-3行/日)〈既往歴〉飲酒2合、喫煙5本/日〈現病歴〉H23年5/7から両側耳下腺の疼痛腫脹が出現したため、5/14耳鼻咽喉科医院を受診。流行性耳下腺炎が疑われた。[ムンプスの既往癧なし、体温37.4度、血清アミラーゼ 226 U/L, 抗ムンプス抗体(HI)<8倍、CRP 1.81 mg/dL]6行/日の軟便も耳下腺の腫脹・口渇・食欲不振が改善してから2-3行/日となり自然に治ると思って1年間経過をみていた。平成24年5/28、脂の浮く軟便が改善しないため当院を受診された。〈理学所見〉身長 172cm, 体重 51kg(最高 55kg), 血圧 134/70, 貧血・黄疸なし, 表在リンパ節触知せず, 胸部所見なし, 腹部:圧痛なく軟, 肝を触知せず, 下肢浮腫なし 〈臨床検査成績〉血清リパーゼ 5 U/L, アミラーゼ 102 U/L, CRP < 0.05 mg/dL, 総蛋白 7.3 g/dL, ALT 113 U/L, g-GT 28 U/L〈臨床経過〉2週間の断酒と整腸剤・消化酵製剤により、少しずつ便通が改善して10日間は調子もよく、脂も出なかった。そのあと心窩部が痛めたため、6/11 桂枝加芍薬湯 2.5g を眠前に追加した。6/25 まだ少し便と脂が流れ出ると訴えあり。冬場に乾燥肌、寒さが苦手な体質と、腹診にてオ血圧痛(微小循環障害)を認めたことから四物湯 3錠(Ku社)・朝食前に変方した。その後、脂臭い便臭が改善して本来の匂いに戻った。腹部に違和感はないが、腸が鳴ると訴えた。便通は3行/日。さらに症状が好転することを期待して、整腸剤に加えてパンクレリパーゼを開始した。東洋薬は桂枝加芍薬湯に戻し 5g 分2とした。8/6 腹部USを施行。膵臓に所見なく、胆嚢結石を認めた。便通は1-2行/日に改善し、9/3 体重が 53kg まで増加した。【考察】成人発症の流行性耳下腺炎は小児と異なり治癒が遅れ、また膵炎の合併は4%以下という。本例は他のウイルス感染も否定できない。上腹部痛の訴えはなく3週間の経過で耳下腺炎は治癒したが、脂肪性軟便が1年間持続して体重減少を来した。膵外分泌機能の低下と考えられ、パンクレリパーゼ1800 mg/日の補充が有用であった。 |