抄録 |
【背景と目的】移植後患者における肝障害はよく見られる病態であるが,原因不明で治療に難渋することも多い.近年, 一過性感染で終わるとされてきたE型肝炎が免疫抑制剤を使用する移植患者で慢性化するケースが欧州で相次いで報告され関心が高まっている. 免疫抑制状態でのウイルスの再活性化はHBV, HCVで問題となっており,HEVでも同様の機序で慢性化した可能性が考えられる.昨年, 我々はブタ由来HEVがヒト初代培養肝細胞(PHC)へ感染したことを報告し, 長年示唆されてきた人獣共通感染症であることが実証された.今回我々は、HEVの持続感染の可能性を検討し更に感染様式の検討も行った.【方法】PHCは, 当科で肝切除術時に得られた正常肝から分離採取した. ブタの糞便より精製したHEV Genotype (G)3jpをPHCに感染させ, 培養液, 細胞中に産生されたHEV RNA量を経時的にRT-PCRで測定した. 光学顕微鏡による感染細胞の細胞変性効果(CPE)の有無を検討した. 培養液中のLDH, ASTの測定を行った. 感染細胞の免疫蛍光染色を行った.【結果と考察】培養液, 細胞中ともHEV RNAの産生が確認されHEV RNA量は25日間増加した. HEV感染細胞のCPEは認めなかった. 培養液中LDH, ASTはほぼ変化はなく, HEVが持続感染する可能性が示唆された. 蛍光免疫染色では, 感染細胞は細胞クラスターを形成し, クラスター数は培養日数と共に増加しなかったが, 各クラスターの細胞数は増加していった(感染1W, 15クラスター, 5.8細胞数/クラスター;感染2W, 19クラスター, 9.4細胞数/クラスターP=0.02;感染3W, 18クラスター, 17.3細胞数/クラスター, P=0.03). この結果は, HEV感染がcell-to-cell感染により広がることを示唆するものであった. 【結語】HEV感染は, ヒト肝細胞においてcell-to-cell感染により持続感染する可能性がin vitroで初めて示唆された. 欧州同様わが国においても, 臓器移植後の患者の慢性E型肝炎に注意すべきと考えられ早急な調査が必要と思われる. |