セッション情報 一般演題

タイトル

最近経験したFitz-Hugh-Curtis症候群の3症例

演者 堤 正秀(国立病院九州医療センター 消化器科)
共同演者 福泉 公仁隆, 釈迦堂 敏, 宮原 稔彦, 福森 一太, 武元 良祐, 巻幡 徹二, 平木場 真千子, 永澤 恵理子, 酒井 浩徳
抄録  Fitz-Hugh-Curtis症候群(以後FHCSと略す)は性感染症に引き続く肝周囲炎で,右上腹部痛が特徴的であり,Chlamydia trachomatis感染症を主要な病因とする.本疾患は比較的稀なものとされ,診断に際して認識されることが少ないため,胆石症や胆嚢炎,急性膵炎等の急性腹症として加療されることも多いと考えられる.1980年頃より始まったクラミジア感染症の爆発的増加により今後急性腹症として鑑別する必要がある. 本年8月1ヶ月間に当科において3症例を経験したので報告する.【症例1】19歳女性,体動時の下腹部痛,右上腹部痛で当院受診.右上腹部の圧痛を認め,検査においてCRP 0.31, WBC 4700, 肝胆道系酵素,アミラーゼは正常範囲内,クラミジア抗体陽性であった.FHCSと診断,レボフロキサシン内服3~4日後には右上腹部痛は消失した.【症例2】23歳既婚の女性.21歳で結婚.H10.10.28出産.下腹部痛にて当院産婦人科受診.右上腹部~背部痛出現し当科紹介受診.CRP 7.0と上昇, WBC 7700他生化学検査で異常を認めなかった.CTにて肝周囲に腹水の貯留を認めなかったが,下行結腸,空腸,骨盤内小腸は全体的に浮腫状に肥厚していた.クラミジア抗体陽性,膣分泌物よりクラミジアを検出した.レボフロキサシンを処方され腹痛消失した.【症例3】23歳女性.下腹部痛と右季肋部痛にて腹膜炎を疑われ当科紹介受診.不整性器出血あり近医婦人科にて検査中であった.右下腹部と右季肋部に圧痛あり.CRP 10.39, WBC 10000と炎症を認めたが,肝胆道系酵素などの血液生化学検査には異常を認めなかった.クラミジア抗体陽性,膣分泌物よりクラミジアを検出し,FHCSと診断,クラリスロマイシン処方し数日で腹痛は消失した. FHCSは一般的に子宮頸管炎からの上行感染により,子宮内膜炎,卵管炎,骨盤腹膜炎,腹腔内感染を起こし,それが肝周囲炎になると考えられている.しかし,右側旁結腸間腔から経腹膜行性,後腹膜リンパ行性,血行性などの経路も考えられており,詳細については不明である.クラミジア感染症は漸次増加傾向にあり,特に女性は1988年から1998年までに約3倍と増加している.我が国では通常の既婚妊婦,健康診断受診若年女子の約5%がクラミジア保菌者,クラミジア感染既往者は約25%に達するとの報告もある.FHCSの診断の第一歩は右上腹部痛の女性を前にして本症を念頭に置くことであり,今後ますます増加することが考えられるため注意を要する疾患である.
索引用語 Fitz-Hugh-Curtis症候群, クラミジア