セッション情報 シンポジウム2

消化管stem cellの新たな展開 基調講演

タイトル

S2-1 マルチカラーキメラ法による小腸幹細胞の維持機構とがん化過程におけるその破綻の解析

演者 上野博夫(関西医科大学病理学第一講座)
共同演者
抄録 演者はマルチカラーキメラ法を開発して消化管上皮細胞の発生成体腸幹細胞の維持機構について解析を行って来た.現在大腸がん発症モデルを用いそのがん化過程における正常成体腸幹細胞の維持機構の破綻について解析を行っているので本講演において紹介する.大腸がんの前がん病変である大腸腺腫の発症にはがん抑制遺伝子であるadenomatous polyposis coli(Apc)遺伝子の変異が深く関与している事が知られている.ヒト大腸がんにおいてApc遺伝子の変異または欠失が高頻度に認められまた家族性ポリポーシスの家系にApc遺伝子の生殖細胞系列変異が報告されている.マウスにおいてもApcに点突然変異を持つApcminマウスなどが家族性ポリポーシスモデルマウスとしてよく知られている. Apc遺伝子産物は腸幹細胞の増殖シグナル伝達経路の一つであるWntシグナル伝達経路の抑制因子でありその変異によりWntシグナルが異常に活性化される事が腸幹細胞の異常増殖につながり腺腫の発症に関与すると考えられている.しかし腸幹細胞の異常増殖がなぜ良性腫瘍である腺腫発症を誘導するのかその機序に関しては詳しく分かっていない.また成体小腸の陰窩内の上皮前駆細胞も月齢によらず終生モノクローナルに維持されている.しかしながらApcminマウスにおいてはポリポーシス発症前の段階においても陰窩内に複数の長期幹細胞が存在する傾向があり発症後に観察されるポリープ内の異型陰窩内の上皮細胞もポリクローナルなまま維持されている傾向があった正常では特に腸上皮細胞の障害が無くても陰窩分裂がある一定の頻度で起こっているがそれにより陰窩内に複数の幹細胞クローンを有する陰窩がモノクローナルな陰窩に変換される傾向があった一一方Apcminマウスにおいては陰窩分裂の頻度が増加しており陰窩分裂を経てもポリクローナルな陰窩が維持される傾向があった.これらの現象と腺腫の発症の関連性について議論したい.
索引用語