抄録 |
空腹感は脳の視床下部にある栄養素に対して感受性を有するニューロンが血中(脳内)のグルコースの低下と遊離脂肪酸の上昇により生じる.食事はエネルギー代謝に関わる栄養素(炭水化物脂質)を摂取して体温や活動性を維持することにより蛋白質や電解質を得ることにつながる.摂食行動を調節する血中のグルコースや遊離脂肪酸は一定の範囲での日内変動を生じ高値でも不快感は生じず過食を生じやすい.一方血中の20種のアミノ酸や電解質は厳密な恒常性を維持しマウスからヒトまで同水準であり食事摂取の量や質に影響を受けないように1日中一定に調節されており生命活動の基本である.特に食事性蛋白質を構成する20種のアミノ酸組成は血中の組成とは異なり消化吸収に際し高度な代謝調節を営む必要がある.脳は食事の摂取の認知とその後の消化吸収そして代謝調節の準備を消化器系臓器に神経系を介して促す味覚情報に関しては脳は摂取した栄養素の概略しか認知できず上部消化管や肝門脈からの各栄養素の情報が迷走神経求心性線維により脳に入力され初めて厳密な代謝調節が可能となる.我々は迷走神経胃枝求心性線維の応答性を調べグルタミン酸および味覚受容でうま味を増強するイノシン酸やグアニル酸のみに応答することを見出した勿論迷走神経小腸枝肝枝はグルタミン酸始めすべての栄養素に特徴ある応答を示す.グルタミン酸は消化液や粘膜の分泌を促すこと特に蛋白質の消化吸収やアルブミン生合成を高めることを見出した.そして高齢者を対象に主食のお粥に嗜好濃度の0.5%グルタミン酸ナトリウムを強化して効果を調べたところ.血中アルブミンの上昇やQOLの改善摂食時の行動の改善等が認められた.最近の消化管でのグルタミン酸シグナリングの働き及び脳腸連関に関する一連の研究成果を解説したい. |