抄録 |
【目的】我々は、除菌治療を行い除菌成功後経過追跡し得た非胃癌発見(非胃癌群)と除菌後発見胃癌群(胃癌群)とを比較し背景粘膜の除菌後変化の相違を中心とした検索を行い、除菌後の胃癌発症要因を検討した。【方法】H. pylori除菌治療成功後再出現なく経過を追跡した2355例(男 1482 例,女821例)を解析、年齢、背景疾患、除菌時の内視鏡的萎縮度、除菌前および最終内視鏡確認時における前庭部大弯、体部大弯胃粘膜の組織学的評価をupdated Sydney systemに準拠して評価、各因子を非胃癌群と胃癌群において比較検討した。【結果】除菌成功2355例中胃癌群は33例 (男25例,女8例)であった(発見率 1.42%)。非胃癌群は除菌時平均年齢 52.5歳±13.5、胃癌群は61.6歳±8.9と胃癌群の除菌時が有意に高齢であった(P<0.001)。内視鏡的萎縮度は非胃癌群3.25±1.49, 胃癌群4.73±1.25と胃癌群で有意に高値であった(P<0.001)。背景疾患では胃癌群で有意に胃潰瘍が高率、十二指腸潰瘍が低率であった。背景胃粘膜の組織所見として非胃癌群と胃癌群では前庭部大弯の炎症、活動性、腸上皮化生および体部大弯の活動性、萎縮、腸上皮化生に有意差はなかったが、前庭部大弯の萎縮(1.42±0.78 vs. 2.00±1.00, P=0.0016)、体部大弯の炎症(1.90±0.75 vs. 2.24±0.66, P=0.019)にて胃癌群が有意に高値を示した。また除菌前後の比較では、非胃癌群では以前の報告で前庭部および体部大弯の萎縮、体部大弯の腸上皮化生の有意な改善を見たが、今回胃癌群では体部大弯の萎縮改善は見たものの前庭部大弯の萎縮、体部大弯の腸上皮化生の有意な改善は認めなかった。【結論】除菌後発見胃癌の要因として除菌時年齢、背景疾患として胃潰瘍、内視鏡的萎縮度、前庭部大弯での組織学的萎縮度、体部大弯での炎症度があげられた。これらの検討よって除菌後発見胃癌のリスクを予測しうる可能性が示唆された。また、胃癌発見群において萎縮、腸上皮化生の除菌後改善が見られなかったことは、他因子関与等も考慮された。 |