抄録 |
【はじめに】「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」(2005年)では、全大腸内視鏡検査には大腸がん死亡を減らす十分な証拠があるものの無視できない不利益があるため対策型検診として推奨していない。一方で現行の便潜血検査に1回の全大腸内視鏡検査を追加した大腸がん検診の有効性を検証する無作為化比較対照試験が進行中である。内視鏡による対策型検診は現実に実施可能であろうか?大腸がん検診における内視鏡精検の感度・処理能力の観点から検証する。【全大腸内視鏡検査の感度】1.厚労省研究班(1999年)の多施設共同研究では、浸潤がんに対する大腸内視鏡検査の感度は追跡期間2年で96.9%(346/357)であった。2.福井県における1995-2001年度の大腸がん検診では全大腸内視鏡(他の検査に引き続いて行われた内視鏡は含めず)による精検が5,399件行われ、136例の浸潤がんが発見された。一方で地域がん登録との記録照合によって上記の精検後2年以内に8例の偽陰性が判明し、全大腸内視鏡検査の感度は94.1%であった。【福井県内の大腸がん検診受診率と内視鏡による精検処理能力】2010年に福井県内全医療機関で実施された大腸がん検診は地域・職域合わせて125,870件で40歳以上の受診率は27.3%であった。地域では大腸がん検診の100%、職域でも97.7%は便潜血検査で行われており、受診率の目標を50%とすると福井県内で約25万件の便潜血検査が必要となる。仮に要精検率を5%とすると年間に12,500件の精検処理能力が必要である。一方、県内101の精検機関の申告によれば週に合計500件以上の全大腸内視鏡検査が実施可能で、精検が特定の機関に集中しなければ精検処理能力は充足しており内視鏡検診も可能かも知れない。【結語】従来の便潜血検査に1回の全大腸内視鏡検査を追加した大腸がん検診の是非については研究結果を待ちたいが、内視鏡による大腸がん検診を実施するにあたっては処理能力の検証とともに偽陰性を減らすために検査の標準化が必要であろう。 |