抄録 |
【目的】膵頭十二指腸切除術や膵全摘など十二指腸を含む膵切除術後には消化酵素薬を十分投与していても術後脂肪肝を経験することがある.当科では良性疾患や低悪性度あるいは非浸潤性の腫瘍に対して臓器機能温存を目指した十二指腸温存手術を行ってきたが,十二指腸温存膵切除後には脂肪肝が発生しないことを経験している.そこで膵切除後の脂肪肝発生における十二指腸温存の意義を明らかにするために検討を行った.【対象】2006年から2010年までに施行した十二指腸温存膵切除の適応疾患(IPMN,NET,SCN,SPN,転移性膵腫瘍)の内,検討可能であった74例を対象とした.膵頭切除50例(幽門輪温存膵頭十二指腸切除PPPD38,十二指腸温存膵頭切除DPPHR12),膵全摘24例(十二指腸温存膵全摘DPTP7,十二指腸切除膵全摘17(幽門輪温存膵全摘PPTP14,亜全胃温存膵全摘SSPTP3))で,年齢,性,体重,BMI,血液生化学検査,HbA1c,PFD,膵切離線,CT値について膵頭切除例と膵全摘例とに分け,十二指腸温存の有無で比較検討した.消化酵素薬とインスリン投与量はPPPDでDPPHRよりやや多い傾向があったが,膵全摘例では十二指腸温存の有無で差はなく,脂肪肝の定義は肝と脾のCT値の比(L/S比)が0.9以下,脾摘出例では肝CT値50HU以下とした.【結果】1)膵頭切除例:血清TP,AST,ALT値は十二指腸温存の有無で差はなかったが,血清Alb値(mg/dL)は術後36ヵ月でPPPD/DPPHRが平均4.2/4.4(p<0.01),HbA1c(%)は術後6,24,36ヵ月でPPPD/DPPHRが平均5.8/5.4,6.1/5.4,6.1/5.4(p<0.05),BMI(kg/m2)は術後6,12,24,36カ月でPPPD/DPPHRが平均21.6/19.4,22.1/19.7,22.8/19.7,23.3/20.0(p<0.05)と,十二指腸切除例で血清Alb値,HbA1c,BMIが良好に維持されていた.術後脂肪肝の発生はPPPDで26%,DPPHRで0%と有意差を認めた(p<0.05).膵全摘ではいずれにおいても十二指腸の有無による有意差を認めなかったが,術後脂肪肝の発生は十二指腸切除例で12%であったが,十二指腸温存例では認めなかった.【結語】膵頭切除,膵全摘における十二指腸温存術式は,術後脂肪肝の発生を予防している可能性が示唆された. |