セッション情報 会長講演

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HGFの発見と臨床応用への展開

演者 坪内 博仁(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器疾患・生活習慣病学)
共同演者
抄録  私が卒業した当時は,劇症肝炎患者が多く,かつ予後が極めて不良であった.その頃,グルカゴン・インスリンが肝再生因子であるという報告があり,膵ホルモンが劇症肝炎の治療に用いられていた.そこで,肝障害と膵ホルモンの関連について調べたが,膵ホルモンが肝再生因子であるという証拠は得られず,臨床的な効果も確認されなかった.そこで,劇症肝炎患者血清を初代培養ラット肝細胞に添加したところ,肝細胞増殖が著しく促進した.私たちは,劇症肝炎患者血漿から,この肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)をはじめて精製することに成功し,ついでcDNAクローニングにも成功した.HGFは728アミノ酸残基からなる一本鎖のポリペプチドとして産生され,細胞外でプロセシングを受けて重鎖と軽鎖に切断され,それらがジスルフィド結合して活性型HGFになる.その後,HGFは細胞分散促進作用や器官形成作用など多彩な生理作用をもつことや特異的受容体ががん原遺伝子産物c-Metであることが明らかになった.
 私たちは,多くの非臨床試験を終えて医薬品医療機器総合機構に治験届を提出し,2005年より組換えヒトHGFを用いたわが国で初めての医師主導治験(第I/II相)を京都大学探索医療センターで実施した.残念ながら,症例はわずか4例であったが,この治験で得られた基礎的なデータをもとに,現在,日本科学技術振興機構の支援(研究成果最適展開支援事業実用化挑戦タイプ(委託開発))を受け,エーザイ株式会社とともに急性肝不全治療薬としての開発を進めている.
索引用語