セッション情報 特別企画

未来につなぐ消化器学

タイトル SS1-2:

消化管からヒト全身を繙く新しい時代の到来

演者 渡辺 守(東京医科歯科大学消化器病態学)
共同演者
抄録 この50年で消化器疾患に関連したノーベル賞は1976年の「オーストラリア抗原発見」と2005年「H. pylori発見」のみである.確かに,1990年後半はH. pylori感染/胃潰瘍・胃がん,2000年代前半はウイルス性肝炎/肝がんの時代であった.しかし,2010年代後半における消化器疾患のトレンドは炎症性腸疾患/機能性腸疾患/大腸がん,即ち「腸」の時代になると予想されている.腸の特殊性が解明されるに伴い,腸は最も外界に曝され,100兆個の腸内細菌と常に応答し,「単なる管」ではない事が明らかとされた.腸がヒト生体内最大のリンパ組織,末梢神経組織,微小血管系,ホルモン系を含有する事が示され,「第2の脳」と呼ばれる程複雑な組織であり,消化器のみならず全身を制御する事を示す研究が報告された.炎症性腸疾患では,病態解明が直接的に治療に結びついた結果として生物製剤が登場し,治療の考え方を大きく変えた.機能的疾患とされてきた過敏性腸症候群においても,腸の特殊性を元に病態解明が進み,器質的であると考え方が主流となった.我々は最近,画期的な大腸上皮幹細胞の体外培養技術確立に成功し,培養細胞は障害された腸管に移植可能である事を証明した.ヒト内視鏡で得る微小生検検体から大腸上皮細胞を培養する手法も確立しており,傷害腸管への自己細胞移植の技術基盤として「Adult Tissue Stem Cell Therapy」を考えている.また,異なる個人から得る内視鏡検体から培養した細胞により,腸が持つ吸収,排泄,分化,ホルモン産生などの解析は,腸疾患のみならず生活習慣病,老化などに対する新しい個別化診断・治療法へ応用できる可能性をもつ.消化管に関する研究は,臨床医が特殊な内視鏡検体を手に入れる事により大きなアドバンテージを持って施行可能となった研究が多い.これから内視鏡医を目指す若い先生には単に技術のみに走ることなく,日本における内視鏡医の有利な点を生かして,消化管からヒト全身を繙く新しい時代に踏み込む事を期待する.
索引用語