セッション情報 特別企画

未来につなぐ消化器学

タイトル SS1-3:

肝臓学の発展を展望する

演者 岡上 武(大阪府済生会吹田病院消化器内科)
共同演者
抄録 過去50年の流れ:オーストラリア抗原(HBs抗原)の発見以来,過去50年近く肝臓の臨床・研究の中心は肝炎ウイルスとそれに起因する肝炎,肝癌の基礎的・臨床的研究であった.近年ウイルス肝炎の病態解明と治療は急速に進歩し,核酸アナログやDAA製剤の治療効果は素晴らしいものの,薬剤耐性株の出現が問題になっている.この間わが国では末期肝疾患の最終治療として生体肝移植が普及した.一方,生活の欧米化に伴い生活習慣病の肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者が増加し,うち20%を占めるNASH起因の肝硬変・肝癌が増加し,NASHを含む非B非C肝癌が年々増加し肝癌全体20%を越している.わが国は多くの肝疾患の病態解明,診断,治療で世界に大きく貢献した.これからの肝臓学:わが国に1,000万人の罹患者がいると推定されるNAFLD/NASHの発症・進展には肝臓での脂質や糖質の代謝異常とともに,内臓脂肪細胞,末梢筋組織,下垂体,腸管などが関与し,遺伝的素因も重要な役割を果たしていることが明らかにされているが,病態解明や治療法の確立はこれからである.糖尿病は肝臓の病気であり,高血圧やCKD患者にもNAFLD罹患者が多い.NASH,アルコール性肝障害,C型肝炎の病態には共通するものがあり,今後10年以上にわたり肝臓学はNAFLDやウイルス肝炎を中心に,アルコール性肝障害,自己免疫性肝疾患などの病態解明や治療法の開発,発癌機構に関しさらなる研究が必要である.そして画像診断法,遺伝子解析,分子標的治療薬の開発や再生医療などが飛躍的に進歩すると期待される.代謝の中心臓器である肝臓は極めて特徴的な組織構造を呈し,形態学,生理学,生化学,免疫学,ウイルス学,分子生物学・遺伝子工学的研究の宝庫で,臓器相関の研究も重要で,他臓器にも目を向けながら肝臓学を研究する必要がある.肝臓学は臨床・研究両面でまだまだ未知・未解決の分野が多く,本講演では自らの研究を振り返り,若い先生方が広い視野に立って肝臓学をさらに発展させてくれることを期待し,将来展望を述べる.
索引用語