セッション情報 特別企画

未来につなぐ消化器学

タイトル SS1-4:

消化器病学領域における再生医療の展望

演者 川口 義弥(京都大学iPS細胞研究所臨床応用研究部門)
共同演者
抄録 「成熟した細胞を,多能性を有する状態に初期化出来ること」が従来の基礎生物学に与えた衝撃は計り知れず,2012年度のノーベル賞(医学生理学賞)に輝いた.受賞理由には含まれていないものの,ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を再生医療へ応用するという夢の実現は,もはや社会的ニーズとなった感がある.ここで我々がとるべき道は,現時点で一つの戦略のみに基づいた研究を推進するのではなく,様々なアプローチを試みた上で最も臨床上のbenefitに勝るものを選択するというスタンスであろう.選択の結果,それが定着してこそ新たな医療の創設につながる.私は「再生医学」には,2通りの読み方ができると考えている.一言で2つの意味を為すとは,まさに漢字文化はすばらしい.一つは多能性幹細胞を成熟細胞へと分化誘導し,それを移植材料として疾患を治療しようという方法(「再び生む」というニュアンスに近い)で,もう一つは臓器特異的幹細胞が有する(或は,過去に有していた)分化能力/細胞供給能力を引き出す事により「再び生やす」という方法である.消化器病学領域における再生医療の実現を見据えた場合,上記いずれの戦略においても,細胞の機能発揮には“成熟細胞の誘導”だけでなく,“組織構築の獲得・維持”が必要である点は指摘されるべきである.このように考えると,発生学や成体臓器維持機構に関する生理学の進歩が重要な意味を帯びてくる事は容易に想像できよう.特に胎生期における細胞の振る舞いと障害後の再生現象や癌における細胞挙動の共通性は,単に再生医療の実現化のみならず疾患の病態解明や新規治療法開発にむけた具体的な戦略構築に重要な意味を持つ.本講演ではこのような観点に立って議論を深めたい.
索引用語