抄録 |
【はじめに】胃癌は各種再発形式で異なる転帰を持つことが明らかであるが,これまでの臨床試験では再発転移形式により治療対象が限定されていない.したがってそれぞれの転移臓器に適切な治療選択という考え方は行われておらず,全身化学療法のみが有効な治療手段とされてきた.【腹膜播種治療の現状】現在の切除不能胃癌の標準的化学療法は,転移臓器にかかわらず,HER2 statusによりS-1/CDDP(SP)療法もしくはXeloda/CDDP/trastuzumab(XPH)療法である.しかしながら,初発癌であれば審査腹腔鏡にて腹膜播種の有無を正確に確認してから治療を開始することができる.私たちの経験では,術前画像検査上P0であった78例に対して審査腹腔鏡を行い,23例(29.5%)がP1 or CY1であった.そのうち12例にS-1+Docetaxel(DS)療法を行い,29例(39%)に化学療法後の手術が可能となった.手術した症例のGrade 1b以上の病理学的奏効割合は44%(4/9),downstagingの割合は78%(7/9)であった.このようにタキサン系抗がん剤を使用した腹膜播種の治療は全身投与でも効果が高く,現在行われている腹腔内投与の第三相試験の結果が期待される.【新しい腹膜播種治療】これまでのような殺細胞性抗がん剤による化学療法法だけでなく,次世代の新しい腹膜播種治療を開発するための基礎的検討を行っている.腹膜は造血幹細胞・前駆細胞を保持し,その未分化性を維持するために必要なCAR(CXCL12-abundunt reticular)細胞が存在する.CAR細胞のマーカーであるSCF(stem cell factor)とケモカインであるCXCL12により,マウス腸間膜におけるCAR細胞の局在を探索すると,主として血管周囲脂肪織の辺縁部に存在する.またCAR細胞が発現するCXCL12レセプターであるCXCR4阻害剤であるAMD3100を投与すると,マウスのがんの腹膜播種が完全に阻害される.【結語】これまでの腹膜播種に対する取り組みが十分な効果を上げているとは言い難い.さまざまな新規治療の開発により次世代の腹膜播種治療が確立されることを期待したい. |