抄録 |
進行・再発胃癌に対する化学療法における個別化医療は開発されつつあるが,肺癌や乳癌に比し遅れていると言わざるを得ない.本邦における胃癌の個別化はおおきく二つの方向で開発が進んでいる.臨床病理学的特徴に基づく個別化と,分子生物学的マーカーによる個別化である.低・未分化型腺癌と分化型腺癌の組織型の違いは,転移臓器や病態の違いをもたらす.S-1もしくはS-1+cisplatinは低・未分化型腺癌により強い治療効果をもたらす可能性を示唆するデータがあり,現在海外では低・未分化型腺癌に対象を限定して,5-fluorouracil+cisplatin vs S-1+cisplatinの比較試験が進行中である.一方,docetaxel+S-1+cisplatinは低・未分化型腺癌に対してS-1+cisplatinより効果的であるとの仮説に基づき,現在日本で進行中の第III相試験において組織型別の効果も評価する予定である.進行・再発胃癌に対して有効性が証明されている分子標的薬剤は,HER2陽性胃癌に対するtrastuzumabのみである.Nimotuzumabやrilotumumabは有効性が期待されているが,EGFRやcMetの発現強度により患者を限定することが必要であることを示唆するデータが報告されている.Bevacizumab,panitumumab,everolimusは,第III相試験において有効性を証明することができなかったが,いずれも患者選択は分子生物学的マーカーによらないものであった.Heterogeneousな胃癌に対する治療戦略は,proof of conceptを含めた少数例での医師主導試験が積み重ねられてこそ発展すると考えられ,また早期開発で得られた,対象が限定された個別化治療の可能性を大規模な比較試験で検証するには,国際協同試験,インターグループスタディが不可欠となるであろう. |