セッション情報 シンポジウム8

切除不能大腸癌の化学療法

タイトル S8-3:

マルチバイオマーカー解析に基づく切除不能大腸癌の化学療法・分子標的治療の展望

演者 能正 勝彦(札幌医科大学内科学第一講座)
共同演者 山本 博幸(札幌医科大学内科学第一講座), 篠村 恭久(札幌医科大学内科学第一講座)
抄録  大腸癌の個別化化学療法・分子標的治療につながる分子異常としてマイクロサテライト不安定性(MSI)などを明らかにしてきた(Nat Genet 2006,2009,Cancer Cell 2010,Genome Res 2012など).現在,抗EGFR抗体薬はKRAS遺伝子野生型の大腸癌に限定して使用されている.BRAF,PIK3CA遺伝子変異やPTEN不活化なども抗EGFR抗体薬に対する耐性に関わると考えられるが,十分な解析がなされていない.化学療法・抗EGFR抗体薬治療を受けた患者大腸癌サンプルを対象に,BRAF,PIK3CA遺伝子変異やPTEN不活化を解析したところ,これら4遺伝子がいずれも野生型である(Quadruple-negative)大腸癌は,抗EGFR抗体薬の感受性が高いと考えられた.
 また,レトロトランスポゾンの一種であるlong interspersed element 1(LINE-1)はヒトゲノムの約17%を占め,そのメチル化レベルは,ゲノムワイドなDNA低メチル化の指標としても重要である.近年,我々はLINE-1メチル化レベルの低下した大腸癌は悪性度が高いことを報告した(Ogino S, Nosho K et al. J Natl Cancer Inst 2008)が,化学療法・分子標的治療の感受性との関連は明らかでなく,上記のサンプルで解析を行ったところ,抗がん剤感受性予測因子としてのLINE-1メチル化レベルの可能性が示唆された.
 さらに,我々は,大腸癌におけるIGF1受容体(IGF1R)を標的とした分子標的治療の有用性を明らかにしてきた.IGF1Rシグナルの亢進は,抗EGFR抗体薬の耐性機序のひとつでもある.そこで,KRAS遺伝子変異陽性大腸癌細胞株に対する抗IGF1R抗体の効果を検討したところ,KRAS遺伝子変異およびPIK3CA遺伝子変異陽性のDLD-1大腸癌細胞株およびBRAF遺伝子変異陽性のHT-29大腸癌細胞株のいずれにも効果を示した.
 切除不能大腸癌においても生検由来サンプルや血液を用いた遺伝子解析は可能であるため,化学療法・分子標的治療の成績向上,真の個別化治療に向けた複数の遺伝子異常,マルチバイオマーカー解析の重要性,治療戦略について展望したい.
索引用語