セッション情報 シンポジウム13

消化器疾患における新規分子マーカー

タイトル S13-7:

C型肝炎における発癌を予測する新規組織学的分子マーカーAKR1B10

演者 佐藤 俊輔(順天堂大学静岡病院消化器内科)
共同演者 玄田 拓哉(順天堂大学静岡病院消化器内科), 市田 隆文(順天堂大学静岡病院消化器内科)
抄録 【目的】C型肝炎患者における血清AFPの上昇は,肝発癌危険因子と報告されている.したがって,AFP値上昇を伴うC型肝炎患者の肝内では,その高癌化状態を規定する分子変化が生じていると考えられる.今回我々はAFP値上昇を伴うC型肝炎患者の肝内発現遺伝子解析から肝発癌に関与する新規分子マーカーの同定を試みた.
【方法】C型慢性肝炎48症例をAFP値上昇群(≧10ng/mL)と非上昇群に分け,cDNAマイクロアレイを用いて肝内発現遺伝子解析を行った.肝内AKR1B10発現に関してqRT-PCRと免疫染色を行いマイクロアレイの結果を確認した.更に,肝内AKR1B10の肝発癌への関与を評価するため,生検後に発癌が認められた27例と,年齢,性別,肝線維化を一致させた54例の非発癌例を用いてmatched case-control studyを行った.
【結果】階層的クラスタリング解析および主成分分析で両群間に明らかな遺伝子発現パターンの違いを認めた.両群間で発現が異なる627の遺伝子の中で,従来肝癌での発現亢進が報告されてきたAKR1B10がAFP上昇群で最も高発現していることが判明した.AFP上昇群におけるAKR1B10の発現亢進はqRT-PCRおよび免疫染色でも確認された.matched case-control studyの結果,単変量解析ではBMI,血清ALT値,血清AFP値,血小板数,肝内AKR1B10発現量が発癌に寄与する因子として抽出され,多変量解析では血小板数と肝内AKR1B10発現量が肝発癌の独立したリスクであることが示された.特に,肝内AKR1B10発現が6%以上の群は6%未満の群に比して20倍以上の発癌リスクを有することが明らかとなった.
【考案】従来肝癌での発現亢進が報告されてきたAKR1B10は慢性肝炎の段階から発現亢進が認められ,発癌リスクと強く関連していることが明らかとなった.すなわち,肝内AKR1B10発現は肝発癌の予測マーカーとして有用と考えられた.また,AKR1B10の発現亢進が肝発癌の極めて初期の分子機構に関与している可能性も示唆された.
【結論】C型肝炎患者における肝内AKR1B10発現は肝発癌予測マーカーになりうる.
索引用語