セッション情報 シンポジウム13

消化器疾患における新規分子マーカー

タイトル S13-11:

膵癌患者における網羅的血清糖鎖解析の臨床応用

演者 能祖 一裕(岡山大学分子肝臓病学(消化器内科))
共同演者 西村 紳一郎(北海道大学先端生命科学研究院), 山本 和秀(岡山大学消化器・肝臓内科)
抄録 【背景】多くの血清蛋白質には糖鎖が結合しており,様々な疾患でその構成が変化することが知られている.膵癌患者でもフコシル化ハプトグロビン等,特定のタンパク質に結合した糖鎖の変化が,診断に有用であることが示されてきた.今回我々は,血清中に生じている糖鎖変化を網羅的に解析し,全容を明らかにするとともに,その臨床応用の可能性について検討した.【方法】治療前膵癌患者92名と健常人243名より得られた血清を,自動化糖鎖ブロッティングシステムで処理後,MALDI-TOF-MSを用いて糖鎖発現量を網羅的に測定した.得られたデーターは,年齢等の影響を線形回帰モデルで補正し,その臨床的有用性を検討した.【結果】膵癌患者の年齢の中央値は66.5歳,男性の割合は58.7%.健常者の年齢の中央値は51.0歳,男性の割合は54.1%.膵癌の診断後の平均観察期間は339日.TNM分類は~T2/T3/T4/TX=5/11/74/2であった.解析可能であった66種類の血清中の糖鎖のうち,膵癌では15種類の糖鎖に発現変化が認められた.その多くは高分岐複合型糖鎖であり,高マンノース型や混成型糖鎖の発現には差が認められなかった.特に3分岐の複合型糖鎖(m/z 3195)は膵癌患者で有意に上昇していた(AUROC=0.79).この糖鎖とその生合成経路上で基質となる糖鎖との比をとると,膵癌と健常人との差がより明らかとなった(median=1.11 vs 0.41,p<0.0001,AUROC=0.83).この糖鎖比が低値の膵癌患者の1年生存率は69.2%であったのに対し,高値の患者では36.9%であり予後との相関も認められた(p=0.001).また発現変化の認められた15種類の糖鎖のうち10種類は遠隔転移症例で有意に上昇しており,病期との相関も認められた.【結語】網羅的血清糖鎖解析は,膵癌の診断,遠隔転移の存在,予後の予測に有用であると考えられた.
索引用語