セッション情報 シンポジウム13

消化器疾患における新規分子マーカー

タイトル S13-14:

血液細胞の遺伝子発現解析による生体のがん反応解明と消化器癌診断法開発の可能性

演者 酒井 佳夫(金沢大学消化器内科)
共同演者 本多 政夫(金沢大学消化器内科), 金子 周一(金沢大学消化器内科)
抄録 【目的】全身を循環する血液の血球細胞は,生体内の疾病に応じた反応を示すと考えられる.今回,胆道癌,膵癌,大腸癌,胃癌患者の末梢全血の遺伝子発現解析をDNAマイクロアレイにて行い,血液に反映される生体のがん反応解明を試み,血液の遺伝子発現解析による癌診断の可能性について検討した.【方法】胆道癌8例,膵癌17例,大腸癌12例,胃癌22例,健常者13例よりRNA即時安定化剤添加PAXジーンRNA採血管にて末梢全血のRNAを分離精製した.遺伝子発現解析には,4x44K Whole Human Genome Microarray(Agilent)を用いた.発現データ解析には,GeneSpring GX software(Agilent),MetaCore(GeneGo)を用いた.これら消化器癌によって発現変動を示した遺伝子群を用いた癌判別能について,validationコホート(胆道癌8例,膵癌23例,大腸癌14例,胃癌22例,健常者14例)を用いて検証した.【成績】全癌症例と健常者間で発現差が1.5倍以上の有意な発現変動を示した遺伝子プローブ数は2665個あり,その遺伝子の生物学的プロセスは,免疫応答,アポトーシス,蛋白調節,細胞周期,細胞接着に関連を示した.健常者と比較して各々の癌腫について2倍以上の有意な変動を示した遺伝子プローブ数は,胃癌495個,大腸癌942個,膵癌1345個,胆道癌1743個であった.膵癌にて変動した遺伝子が関連する生物学的プロセスの上位には,炎症関連プロセスが示された.大腸癌,胃癌では,免疫応答と炎症に加え,蛋白翻訳プロセスが示された一方,胆道癌では細胞周期,転写,蛋白翻訳に関連するプロセスが示された.validationコホートでの遺伝子発現のsupport vector machineによる癌の判別能を2665個の遺伝子プローブを用いて検証したところ,感度98.5%,特異度92.9%と,良好に判別された.【結論】消化器癌において末梢全血の遺伝子発現パターンが変化し,健常者と癌患者を判別された.消化器癌における血球細胞に反映されるがん反応マーカーの探索とその発現解析による診断法開発の可能性が示唆された.
索引用語