セッション情報 シンポジウム14

消化器領域における幹細胞研究の進歩

タイトル S14-1:

Paneth細胞による腸管上皮幹細胞制御機構

演者 佐藤 俊朗(慶應義塾大学医学部消化器内科)
共同演者
抄録  腸管上皮は絨毛と陰窩から構成され,幹細胞ヒエラルキーが組織構造と一致している.幹細胞は陰窩底部に存在し,幹細胞の自己複製と全ての腸管上皮分化細胞を産生している.我々は,腸管上皮幹細胞を単離し,in vitroにおいて幹細胞機能を維持し,絨毛―陰窩を擬似化した組織構造体(オルガノイド)を再構成することに成功した.オルガノイドは非上皮細胞を必要とせず,腸管上皮幹細胞とWnt/R-spondin,EGF,Nogginによって自己再生することがわかった.さらに,幹細胞の娘細胞の1つであるPaneth細胞は幹細胞維持に必須となるWnt-3,EGF,Notch ligand(Dll4)を発現しており,in vitro・in vivoにおいて幹細胞ニッチとして機能していることを明らかにした.放射線照射により大部分の腸管上皮幹細胞が除去されるが,腸管上皮幹細胞の数は急速に回復し,幹細胞の自己複製では説明できない.我々は腸管上皮傷害後,非幹細胞が幹細胞に脱分化すると考え,検証した.腸管上皮前駆細胞に発現するDll1に着目し,Dll1-EGFP-ires-CreERマウスを作成し,Cre activatable LacZレポーターマウスと交配した.このマウス(Dll1/Reporter)に対してlineage tracing解析を行ったところ,通常は幹細胞lineageが観察されないが,放射線照射により,幹細胞lineageが出現することが見出された.Dll1+細胞は高濃度のWnt存在下で培養することにより,in vitroで幹細胞に脱分化することがわかり,幹細胞ニッチによって腸管上皮前駆細胞は幹細胞に形質が変化しうることが示唆された.これらの結果から,腸管上皮において,幹細胞はニッチ細胞によってその幹細胞機能が制御されていることが示された.
索引用語