セッション情報 シンポジウム14

消化器領域における幹細胞研究の進歩

タイトル S14-2:

腸幹細胞ニッシェにおけるLgr5シグナル伝達経路の役割

演者 大谷 顕史(国家公務員共済組合連合会新小倉病院消化器科)
共同演者 Kuo Calvin(スタンフォード大学医学部内科), 藤本 一眞(佐賀大学医学部内科)
抄録 絶え間ない腸粘膜再生を担う腸幹細胞(ISC)システムは,血球系幹細胞や毛包系幹細胞と同様に,複数の幹細胞グループにより巧妙に構築されていることが我々の報告を含め最近明らかにされてきた.Lgr5は活動期,Bmi1は休止期にあるISCに発現している.G蛋白共役型受容体であるLgr5はWnt受容体と会合してR-spondinシグナル伝達を仲介するが,その生体における働きは現在まで不明である.我々はISCニッシェにおけるLgr5の役割を解明するために,Lgr5の細胞外ドメインを発現するアデノウイルス(Ad Lgr5 ECD)を作成,マウスに投与して腸粘膜の細胞動態を検討した.Ad Lgr5 ECD投与により腸陰窩底部に存在するパネート細胞は変性し,陰窩上方へ移動,脱落した.これらのパネート細胞ではWntシグナル経路が抑制されていた.またLgr5+ISCは消失し,その子孫細胞も認めなかった.しかしながら腸粘膜の恒常性は保たれており,Lgr5+ISC以外のISCによる腸粘膜維持機構の存在が示唆された.これを裏付けるようにAd Lgr5 ECD投与後はBmi1+ISCおよびその子孫細胞の増殖が亢進していた.Ad Lgr4 ECD投与ではこのような変化は認めなかった.またAd Lgr5 ECDはAd R-spondin1が誘発する腸陰窩の細胞増殖促進効果を抑制した.今回の結果より,Lgr5+ISCおよびパネート細胞の維持にはLgr5を介したシグナル伝達経路が重要な役割を有すること,Lgr5+ISCおよびパネート細胞が失われても別のISCにより腸粘膜の恒常性が維持されること,が明らかになった.また今回作成したAd Lgr5 ECDは成体幹細胞システムの解析に有効なツールであると考えられた.
索引用語