セッション情報 シンポジウム14

消化器領域における幹細胞研究の進歩

タイトル S14-4:

正常腸管および腸腫瘍におけるDclk1/Lgr5陽性細胞の役割

演者 中西 祐貴(京都大学消化器内科)
共同演者 妹尾 浩(京都大学消化器内科), 上尾 太郎(京都大学消化器内科)
抄録 [目的]Dclk1は「+4 position幹細胞」のマーカーとして当初報告された.しかし最近,Dclk1は分化した細胞(Tuft細胞)のマーカーであるとも報告され,Dclk1の幹細胞マーカーとしての役割については議論が分かれている.また,ヒト大腸癌やマウス腸腫瘍においてDclk1陽性細胞の存在が確認されているが,腫瘍内での役割についてはほとんど解明されていない.今回我々は,正常腸管および腸腫瘍におけるDclk1陽性細胞の意義について,代表的な腸管幹細胞とされるLgr5陽性細胞との対比・検討を試みた.[方法]Dclk1プロモーターの下流にCreERT2-IRES-EGFP配列をノックインしたDclk1-CreマウスとRosa26Rマウス,そして代表的な腸腫瘍形成モデルApcMinマウス等を交配し,正常腸管および腸腫瘍においてDclk1陽性細胞からのlineage tracing解析を行った.また,Lgr5-Creマウスを用いたlineage tracing解析結果との比較を行った.さらに腫瘍中におけるDclk1とLgr5との関連について,免疫染色とFACSを用いた解析を行った.[結果]Dclk1-Cre/Rosa26Rマウスの正常腸管では,タモキシフェン投与により青色のDclk1陽性細胞は疎に出現するのみで,子孫細胞の供給は認めなかった.一方,ApcMinマウスの腸腫瘍においては,タモキシフェン投与後に,腫瘍底部から青色の子孫細胞が管腔側へ向けて進展し,7日後には腫瘍全体が青色の子孫細胞によって占められた.この結果はLgr5-Creマウスでのlineage tracingにおいて,タモキシフェン投与後7日後に,正常腸管と腸腫瘍の双方がLgr5陽性細胞の子孫細胞によって占められたことと対照的であった.さらに腸腫瘍の底部において,Dclk1/Lgr5共陽性細胞が認められた.FACSによってDclk1/Lgr5共陽性細胞が他の幹細胞マーカーを高発現し,アポトーシス抵抗性を持つことが示された.このことから,Dclk1/Lgr5共陽性細胞が真の腫瘍幹細胞である可能性が示唆された.[結論]Dclk1陽性細胞はマウス正常腸管では幹細胞として機能せず,腸腫瘍においてのみLgr5を共発現して,幹細胞性を示すと考えられた.
索引用語