セッション情報 シンポジウム14

消化器領域における幹細胞研究の進歩

タイトル S14-8:

自己脂肪組織由来間葉系前駆細胞を用いた組織再生医療の臨床応用―消化器外科領域における展開と現状―

演者 水島 恒和(大阪大学消化器外科)
共同演者 山本 浩文(大阪大学消化器外科), 森 正樹(大阪大学消化器外科)
抄録 近年,幹細胞を用いた組織再生医療に対する期待が高まりつつあり,種々の疾患において臨床応用に向けての試みが行われている.脂肪由来幹細胞(Adipose Derived Stem Cells;ADSC)は多能性に加えて,抗炎症作用や血管新生作用を有することも報告されており,再生医療における有力な候補の一つである.われわれは,消化器外科領域における自己脂肪組織由来間葉系前駆細胞を用いた組織再生医療の臨床応用を計画した.本邦,海外ともに消化管手術後に生じる腹腔内膿瘍,縫合不全などの合併症発生頻度は約2%と決してまれではない.これらの病態の大半は,保存的治療や一時的な人工肛門造設などにより治癒しうる.しかし,時として創傷治癒遅延により,難治性皮膚瘻となり,患者のQuality of Lifeを著しく低下させる.この様な難治性皮膚瘻を対象疾患として設定した.麻酔下に患者自身の腹壁もしくは臀部から大腿部より,脂肪組織を吸引採取し,自動細胞処理装置(Cytori Therapeutics社製)を用いて,ADSCを含む濃縮細胞液を調製する.濃縮細胞液は,瘻孔内の掻爬,洗浄を行った後,半量を瘻孔周囲組織内に,残りをフィブリン糊と混合し瘻孔内に充填移植する.臨床試験実施に先立ち,マウス腹腔内死腔モデルに対し,脂肪細胞とともにADSCを移植することにより,脂肪細胞単独移植に比し,良好なグラフトの生着,血管新生が得られることを確認した.これらの基礎的データを元に,2009年5月より院内プロジェクトチームを結成し,試験計画作成を開始した.2010年5月に大阪大学医学部附属病院ヒト幹細胞臨床研究審査委員会に申請し,10月に承認を得た.2011年2月厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会に申請,8月に承認を得て,研究を開始した.難治性皮膚瘻に対する組織再生医療の現状につき報告する.
索引用語