セッション情報 シンポジウム14

消化器領域における幹細胞研究の進歩

タイトル S14-11:

EpCAM陽性肝細胞癌幹細胞維持機構におけるクロマチンリモデリング蛋白CHD4の役割

演者 山下 太郎(金沢大学附属病院消化器内科)
共同演者 丹尾 幸樹(金沢大学附属病院消化器内科), 金子 周一(金沢大学附属病院消化器内科)
抄録 【目的】近年肝細胞癌において幹細胞性を有する癌幹細胞(CSC)が同定され,治療標的として重要視されている.我々はEpCAMが肝CSCマーカーであり,AFP陽性肝癌の門脈浸潤や抗癌剤耐性,予後不良に関わることを報告してきた.本研究ではEpCAM+CSCにおける活性化シグナル伝達経路を解析,CSCを標的とする治療法の確立を試みた.【方法】388例の肝細胞癌外科切除標本を用いてマイクロアレイ解析および免疫組織化学を行い,EpCAM陽性肝細胞癌におけるシグナル伝達系について解析した.新鮮外科切除標本を用いてEpCAM+CSCを分離し,免疫不全マウスへ移植,腫瘍形成能について評価した.HDAC阻害剤,PARP阻害剤がEpCAM+CSCに与える影響をin vitroおよびin vivoで評価した.【結果】遺伝子のエピジェネティック制御に関わるパスウェイの活性化がEpCAM陽性肝細胞癌で認められ,クロマチン修飾に関わる酵素HDAC1,やCHDファミリーの発現亢進が確認された.特にCHD4はEpCAM+CSCで高い発現が認められ,エピルビシン投与で速やかにPARPと共に核内の一部に集積,CHD4遺伝子発現抑制により癌幹細胞の抗癌剤抵抗性が減弱した.一方HDAC1はCHD4と複合体を形成することが知られ,CHD4遺伝子発現抑制によりその蛋白発現低下が認められた.HDAC阻害剤はEpCAM+CSCの減少を誘導する一方,PARP阻害剤はEpCAM+CSCの抗癌剤感受性を高め,両者を併用することでマウス皮下腫瘍移植モデルでの腫瘍形成を著しく抑制した.【結論】CHD4はEpCAM+CSCにおいて強発現し,PARPを介した抗癌剤抵抗性及びHDAC1を介したエピジェネティックな幹細胞性維持に関わっている可能性が示唆された.HDAC阻害剤とPARP阻害剤の併用は,門脈浸潤陽性AFP陽性肝細胞癌におけるEpCAM+CSCを標的とした新たな分子標的療法として有望である可能性が示唆された.
索引用語