セッション情報 シンポジウム14

消化器領域における幹細胞研究の進歩

タイトル S14-12:

食道がん幹細胞におけるTGF-β/Notchシグナルを標的とした新規治療法の創出

演者 夏井坂 光輝(北海道大学消化器内科学)
共同演者 大西 俊介(北海道大学消化器内科学), 坂本 直哉(北海道大学消化器内科学)
抄録  癌幹細胞の存在が多くの固形癌においても報告され,癌幹細胞が再発,転移,治療抵抗性に深く関与していることが明らかとなってきた.また,上皮間葉移行(EMT)をした間葉系癌細胞が癌幹細胞である可能性を示唆する結果が多く報告されている.現在では多くの癌において癌幹細胞の同定および癌幹細胞を標的とした治療法の開発がすすめられているが,食道扁平上皮癌を用いた研究は極めて少ない.
 我々はCD44high/CD24low細胞が食道扁平上皮癌における癌幹細胞であることを同定した.CD44high/CD24low細胞は間葉系の性質を有しており,抗癌剤に対して抵抗性であった.ヌードマウスを用いた皮下移植実験では,わずか10個のCD44high/CD24low細胞で腫瘍を形成し,連続移植実験においてCD44high/CD24low細胞は親腫瘍と同性質の腫瘍を形成した.TGF-βによるEMTがCD44high/CD24low細胞の維持に重要であり,また,このEMTの過程においてNotchシグナルが必須であった.食道癌細胞株においてTGF-β/Notchシグナルを活性化するとCD44high/CD24low細胞は増加し,逆にそれらの阻害剤によりCD44high/CD24low細胞は有意に抑制された.手術検体を用いた検討では食道扁平上皮癌の浸潤部においてNotch1が高頻度に活性化しており,Notch1の活性化を伴う症例は有意に予後不良であった(n=115).浸潤部においてTGF-βシグナルを介したEMTが食道扁平上皮癌の進展に寄与していることを報告しており(Ohashi et al. 2011 Can Res),これらの結果は食道扁平上皮癌の浸潤部において,TGF-βによるNotch1を介したEMTが癌幹細胞を維持し,腫瘍の進展,治療抵抗性に深く関わっていることを示唆している.動物実験においてもTGF-β中和抗体は腫瘍内のCD44high/CD24low細胞を減少させ,腫瘍増殖を抑制した.
 癌幹細胞を標的とした治療法の開発は今後の癌治療における大きな課題の一つである.TGF-β/Notchシグナル阻害が食道がん幹細胞を標的とした新たな治療法となり得る可能性があり,今後益々の研究の発展が期待される.
索引用語