セッション情報 パネルディスカッション3-1

高齢者消化器疾患の現状と対策:消化管

タイトル PD3-1-9:

高齢者における消化性潰瘍と心因性ストレスとの関連―東日本大震災前後の集計結果から―

演者 飯島 克則(東北大学消化器内科)
共同演者 菅野 武(東北大学消化器内科), 下瀬川 徹(東北大学消化器内科)
抄録 大きな自然災害では,地域住民に同時に広く心因性ストレスが加えられるため,災害前後での消化性潰瘍の成因を調べることは,人における心因性ストレスと消化性潰瘍の関連を調べる貴重な機会となる.我々は,宮城県内の主要7病院での東日本震災前後に発症した消化性潰瘍を集計し,H. pylori(HP)感染やNSAIDs薬剤服用などのない(non-HP,non-NSAIDs),純粋な心因性ストレス性潰瘍と考えられるものの割合が,震災後,有意に増加することを報告した(Kanno T, et al, JG, in press).今回の検討では,対象を65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者に分けて解析を行った.【方法】宮城県被災地域内にある東北大学病院,石巻赤十字病院,気仙沼市立病院,塩釜市立病院,大崎市民病院,栗原市立栗原中央病院,みやぎ県南中核病院において,震災発生直後(2011/3/11)から3か月間で新たに診断された胃十二指腸潰瘍症例を対象にし,HP感染,低用量アスピリンを含むNSAIDs内服状況などに関してのデータを集計し,前年同時期(2010年)のもと比較した.心因性ストレスとの関連を検討するために重症外傷合併例は除外した.【結果】震災後の潰瘍発生件数は,非高齢者で1.27倍(121→154件),高齢者で1.64倍(140→229件)に増加し,高齢者で増加がより顕著であった.non-HP,non-NSAIDs潰瘍の割合は,高齢者では,前年16%から震災後30%に有意に増加していたが(P<0.05),非高齢者では,有意な変化は見られなかった(前年11% vs.震災後17%).【結論】東日本大震災後には,高齢者での潰瘍発症が顕著で,特に,純粋な心因性ストレスによると考えられる症例の割合が,高齢者でのみ有意に増加しており,高齢者では,心因性ストレス単独でも潰瘍発症に至ることが示された.このことは,一般に高齢者では,心因性ストレスのかかる状況では,潰瘍発症のリスクが高くなることが予想され,予防への対策が必要となると考えられる.
索引用語