セッション情報 ワークショップ2

HBVジェノタイプとB型肝炎の病態

タイトル W2-1:

全国国立病院による定点観測から明らかになったB型急性肝炎の変遷

演者 山崎 一美(国立長崎医療センター・臨床研究センター)
共同演者 玉田 陽子(国立長崎医療センター・臨床研究センター), 八橋 弘(国立長崎医療センター・臨床研究センター)
抄録 【目的】我が国における過去20年間のB型急性肝炎の病態の変遷とgenotype(gt)の関与について検討した.【方法】全国国立病院機構28施設の共同研究による急性肝炎の定点観測において,1991年から2009年までに発症・登録されたB型急性肝炎547症例を対象とし,prospectiveに観察した.またgt. Aとgt.BについてはpreS1/S2/S領域の塩基配列を決定し分子系統解析を行った.【結果】1)gtの内訳はA:137例(25%),B:48例(9%),C:359例(66%),その他3例(0.5%)だった.5例(0.9%)が持続感染の臨床経過を示し,いずれもgt. Aであった.2)首都圏においてgt. Aの占める割合は,1991-1996年:4.8%,1997-2002年:29.3%,2003―2008年:50.0%であったが,首都圏以外の地域ではそれぞれ6.5%,8.5%,33.1%と首都圏に遅れて増加していた.3)gt. Aのうちsubgenotypeを決定できた114例において,A1:13例(11.4%),A2:101例(88.6%).同様に解析できた43例のgt. Bでは,B1:10例(23.3%),B2:28例(65.1%),B3:2例(4.7%),B4:3例(7%)であった.4)preS1/S2/S領域において同一の塩基配列を示した相同性を有するstrainが7群,計65例(64%)存在し,いずれもgt.A2に集積していた.これらのウイルス株は1994年から2009年までの期間変異を伴うことなく検出された.一方gt.Bでは1群のみ5例(10.4%)で同一strainを認めた.【結論】日本のB型急性肝炎の中で,gt.Aは首都圏で急増し,遅れて地方へ拡散している.また1994年に確認されたある特定のHBV subgenotype A2株は,急性肝炎の主たる免疫応答の場となるpre-S領域に変異を誘導することなく15年経過しても同一strainのままで継代されていた.このことから,HBV/gt. Aの感染様式は,宿主の強い免疫反応を受ける前(肝炎発症前の比較的長い潜伏期)に,次の宿主へ伝播していくと考えられた.これまでのB型急性肝炎の感染源はHBV/gt.BおよびCのキャリアが多数であったのに対し,gt. Aではそれと異なる感染様式を示していると考えられた.
索引用語