抄録 |
【目的】わが国における急性肝不全の実態と診療における問題点を明らかにするために,2011年に厚労省研究班が発表した診断基準に準拠して集計した症例を解析した.【方法】消化器病学会,肝臓学会の評議員所属552診療科および救急医学会会員所属463診療科を対象に,2010年および2011年に発症した急性肝不全および遅発性肝不全(LOHF)の臨床所見を調査した.【結果】2010年の発症例として,急性肝不全211例(非昏睡型96例,急性型61例,亜急性型54例),LOHF 9例の計220例が登録された.急性肝不全は肝炎症例が198例(85例,54例,49例),肝炎以外が23例(11例,7例,5例)で,LOHFは全例が肝炎症例であった.劇症肝炎に相当する昏睡型の肝炎症例では,血漿交換と血液濾過透析が急性型ではともに80%,亜急性型では65%と69%,LOHFではともに56%で行われていたが,非昏睡型の肝炎症例でも19%と18%で実施されていた.副腎皮質ステロイドは非昏睡型,急性型,亜急性型,LOHFで夫々68%,60%,77%,67%で投与されていた.肝移植は肝炎症例でのみ施行されており,その頻度は急性型が24%,亜急性型が27%,LOHFが11%であったが,非昏睡型でも2例の実施されていた.内科治療での救命率は,肝炎症例は非昏睡型87%,急性型32%,亜急性型19%,LOHF 0%で,肝炎以外の症例は全体で26%であった.肝移植実施例における救命率は全体で62%であった.成因別に内科的治療による救命率を見ると,ウイルス性は急性型でも27%で,A型でも50%と低率であった.B型キャリア例と自己免疫性症例は,昏睡型が全例死亡し,非昏睡型でも死亡例が認められた.薬物性と成因不明例の救命率は,急性型が33%と42%,亜急性型が0%と29%,LOHFがともに0%であった.【結論】2010年の症例は,前年までと同様の治療が実施されていたが,内科治療による症例のみならず,肝移植実施例の救命率も低下していた.今後,2011年の症例の実態も解析して,急性肝不全の予後が不良になっている原因を明らかにすることが課題である. |