抄録 |
【背景】高齢化社会に伴い,潜在的に嚥下障害を認める患者が増加しており,注目されている.高齢男性の嚥下障害は,唾液の咽頭内貯留から咽喉頭異常感症として受診するケースが多い.しかしながら,そのメカニズムについては未だ不明な点が多い.【目的】年齢および性差から見た頚部食道運動機能の特徴を,新たに臨床応用した組織ドプラ法(Tissue Doppler Imaging: TDI)とHigh resolution manometry (HRM)を用いて検討した.【対象および方法】健常者62名(男性24例,平均年齢57.7歳)に,TDI(東芝SSA-790A)およびHRM(Sandhill Scientific社製INSIGHT G3)を施行した.TDIでは,輪状咽頭筋の尾側端から1cm胃側における頚部食道短軸像を測定部位とし,ゼリー5ccを5回坐位で嚥下する際の頚部食道壁の運動を観察した.画像はraw dataとして機器のメモリに保存し,機器内臓の解析ソフトで解析した.1時間休憩の後,鼻腔よりHRMカテーテルを挿入し,ゼリー5ccを5回嚥下させ,頚部食道運動を評価した.【結果】TDIを用いた頚部食道壁の年齢別の検討では,高齢者(65才以上)で有意に頚部食道壁の弛緩速度がpeakになるまでの時間(Acceleration time: ACT)が延長していた.[高齢者群: 283±61 (ms) vs. 非高齢者群: 232±51 (ms), p<0.01].性別の検討では,男性で有意に頚部食道壁の移動距離が長く[男性: 4.4±3.2 (mm) vs. 女性: 3.2±1.4 (mm), p<0.05],また弛緩速度が速い[男性: 16.2±5.7 (mm/sec) vs. 女性: 15.1±5.1 (mm/sec), p<0.01]結果であった.また,HRMにより嚥下圧は加齢とともに低下しており,TDIにより測定されるACTと嚥下圧との間には,有意な負の相関を認めた(r=-0.52, p<0.01).【結論】男性では,頚部食道壁運動の移動距離が長く,加齢に伴う嚥下圧の低下により頚部食道壁の弛緩時間が延長し,咽喉頭異常感症を訴える可能性が示された. |