セッション情報 ワークショップ5

改正臓器移植法施行後の肝移植の現状と展望

タイトル W5-1:

神戸大学における臓器移植法改正後の肝移植の現状

演者 武部 敦志(神戸大学付属病院肝胆膵外科学)
共同演者 福本 巧(神戸大学付属病院肝胆膵外科学), 具 英成(神戸大学付属病院肝胆膵外科学)
抄録  臓器移植法の改正は脳死ドナー数の増加に一定の効果を示し,脳死全肝移植は生体部分肝移植とともに末期肝不全症例への治療選択肢の一つとなった.一方で提供されたドナー数は本邦と同様の臓器提供システムを持つ諸外国と比して極端に少なく,現在もなお生体部分肝移植が肝移植医療の中心である.当院では2010年7月より17例に脳死移植登録を行った(劇症肝炎2例・B型肝炎急性増悪1例・生体肝移植グラフト機能不全1例・肝細胞癌1例・ウイルス性肝硬変6例・Wilson病2例・PBC2例・その他2例).このうち2症例(生体移植後グラフト機能不全1例・B型肝炎急性増悪1例)で脳死全肝移植を施行した.両症例とも医学的緊急度が最高点と診断され,ICU管理下での25日間・14日間の待機期間の後に全肝グラフトの提供があった.また劇症肝炎2例も医学的緊急度が最高点と診断されたが,1例は10日間の待機後に全身状態を考慮し生体部分肝移植を選択し,もう1例は内科的治療にて軽快した.分割肝グラフト提供の申し入れが1例あったが医学的理由により選択しなかった.これまで4例の待機中死亡(待機期間7―151日)を認めている.なお同期間中に生体部分肝移植は10例施行した(肝細胞癌3例・肝硬変5例・PBC1例・劇症肝炎1例).当院において緊急移植以外での脳死全肝ドナーの提供はなく,現時点では脳死全肝移植が劇症肝炎・グラフト不全にほぼ限られた選択肢であると考えられた.医学的緊急度最高点症例でも平均待機期間は約2週間とされ,脳死移植施設では肝不全症例への集学的治療の長期継続が必要となる.脳死全肝移植待機患者の生体部分肝移植への移行時期もつねに考慮しておくべきである.アンケート調査で臓器提供の意思を持つ人や提供承諾の意思を持つ家族の割合は欧米と大差ないとの報告もあり,移植医療の医療従事者への啓蒙や脳死判定施設の充実は脳死ドナー数の増加に効果的と考えられる.また現在本邦ではあまり普及していない分割肝移植や境界ドナーグラフトの適応拡大も,ドナー数増加に関する重要な課題である.
索引用語