セッション情報 ワークショップ5

改正臓器移植法施行後の肝移植の現状と展望

タイトル W5-5:

脳死肝移植の現状と展望

演者 田村 純人(東京大学病院肝胆膵外科・人工臓器移植外科)
共同演者 菅原 寧彦(東京大学病院肝胆膵外科・人工臓器移植外科), 國土 典宏(東京大学病院肝胆膵外科・人工臓器移植外科)
抄録 法改正前には日本全体で年平均約5例であった脳死肝移植症例数は改正後増加し,2011年中には41例の脳死肝移植が実施された.劇的な飛躍ではあるものの,欧米や隣国韓国に及ばない現状は残念ながら大きくは変わっていない.同年の韓国の症例数を人口比で調整し,我が国に当てはめてみた場合,年間750例程度となる.どれほどの期間を要するか様々な要因が影響すると思われるが,日本での脳死移植医療を推進していく上で達成されるべきひとつの目標と考えたい.本邦での今後の脳死肝移植のさらなる普及には,ドナーと残された家族の善意が生かされているという国民の信頼を得ることが欠かせない.すなわち,レシピエントの成績が良好であることが望まれる.2011年8月末までの本邦の脳死肝移植レシピエントの1年,5年,そして10年生存率は,それぞれ86.1%,81.2%,73.2%であり,経験豊かな諸外国と比較しても遜色はない.自施設では脳死肝移植17例を経験しており,5年生存率は100%である.経験症例数は少ないものの,生体肝移植での様々な経験を生かし,良好な結果を維持し得ていると考える.また,治療効果のみならず治療機会の公平性についても,消化器病専門医・肝臓専門医は勿論の事,一般医療者の理解を得ることが重要である.現状の背景疾患の比較では,成人生体肝移植例では多いC型肝炎と肝細胞癌が脳死肝移植例では少なくなる傾向にあり,その一方で劇症肝炎が多くなる傾向が認められる.また,小児に対する脳死肝移植は法改正以降も伸び悩んでいる.今後の提供症例数の増加を見守った上で,臓器配分システムに工夫を加えていくことが望まれる.
索引用語