セッション情報 ワークショップ8

炎症性腸疾患の病態解明を目指した新しいアプローチ

タイトル W8-2:

腸上皮細胞特異的PipkIII欠損マウスの腸炎と腸線維化の発症機序の解析

演者 堀江 泰夫(秋田大学消化器内科学)
共同演者 大西 洋英(秋田大学消化器内科学), 真嶋 浩聡(秋田大学消化器内科学)
抄録 【目的】我々は,クローン病の候補遺伝子とされるMTMR3と細胞内小胞輸送を協調して制御するPIPKIII蛋白質を腸上皮細胞特異的に欠損するマウス(KOマウス)の腸管に炎症と線維化を見いだし,このマウスがクローン病の動物モデルであることを報告してきた.今回は,KOマウスの腸炎と腸内フローラ異常,腸線維化と上皮間葉転換(EMT)の関連について検討した.【方法】KOマウスの大腸内フローラを定量PCR法で網羅的に解析した.小腸パネート細胞の分泌顆粒が腸内フローラに影響を及ぼすことから,KOマウスの回腸におけるパネート細胞の形成障害の有無について検討した.EMTについては,KOマウスに,cre recombinaseの存在下にEYFP蛋白質を発現するEYFPレポーターマウスを交配し作製したPipkIII KO-EYFPマウスの大腸組織を間葉系細胞マーカーS100A4抗体で免疫染色することによって検討した.また,ラット腸上皮細胞株IEC-6にPIPKIIIキナーゼ阻害剤を加え,S100A4抗体で免疫染色するとともに,EMT関連遺伝子の発現をRT-PCR法で検討した.【結果】KOマウスでは,炎症性腸疾患でみられる大腸内フローラとよく似たフローラが形成され,回腸のパネート細胞の分泌顆粒の形成障害がみられた.また,PipkIII KO-EYFPマウスの大腸上皮細胞では,PIPKIII蛋白質の欠損を示唆するEYFP蛋白質の発現とS100A4蛋白質の発現がオーバーラップし,さらに,PIPKIII阻害剤で処理したIEC-6細胞ではS100A4蛋白質の発現誘導がみられ,EMT関連遺伝子の発現増加がみられた.【結論】PipkIII KOマウスの腸管には,腸内フローラの異常と腸上皮細胞のEMTポテンシャルの増加に起因する炎症,線維化が惹起された.腸上皮細胞の細胞内小胞輸送系の異常の観点から,クローン病の病態解明に新たなブレークスルーがもたらされる可能性がある.
索引用語