セッション情報 ワークショップ9

炎症性腸疾患の内科的治療戦略と外科との接点

タイトル W9-1:

難治性潰瘍性大腸炎に対するinfliximabおよびtacrolimusによる治療成績の検討

演者 松岡 克善(慶應義塾大学消化器内科)
共同演者 金井 隆典(慶應義塾大学消化器内科), 日比 紀文(慶應義塾大学消化器内科)
抄録 【背景・目的】潰瘍性大腸炎難治例に対してinfliximab(IFX)とtacrolimus(Tac)が,近年相次いで保険適用になった.今回の検討では,(1)IFXとTacの治療成績,および(2)IFXとTacの移行例における経過を解析することによって,両薬剤の位置づけや手術適応の時期を明らかとすることを目的とした.【方法】対象は,2009年7月から2012年8月までに当院でIFX・Tacの投与を受けた潰瘍性大腸炎76症例である.Lichtigerスコアをもとに治療効果をretrospectiveに解析した(臨床的寛解:Lichtigerスコア4点以下).【結果】臨床背景では,Tac初回治療43例のLichtigerスコアが平均11.8点であったのに対して,IFX初回治療33例の平均は8.8点と,Tacは重症例に対して用いられていた.Tac初回治療43例では,治療開始3カ月後に22例(51.2%)で臨床的寛解が得られていた.IFX初回治療33例においても臨床的寛解は15例(45.5%)で得られており,初回治療においては両薬剤の有効性には差を認めなかった.一方で,Lichtigerスコア11点以上の重症例でみると,Tac治療群の臨床的寛解率が48.0%であったのに対して,IFX治療群では33.3%とTacの有効率が高い傾向を認めた.次に両薬剤の移行例について検討した.IFXからTacに移行した8症例のうち,臨床的寛解に至った症例は1例(12.5%)にすぎず,またTacからIFXに移行した16例においても臨床的寛解が得られたのは7例(43.8%)であり,いずれも初回治療例に比べて有効性が劣っていた.治療の移行を行った24例のうち8例(33.3%)は,その後手術を要していた.治療の移行による重篤な副作用の発現は,本検討期間中には認めなかった.【結論】難治性潰瘍性大腸炎においてTacやIFXは有効な治療法である.現時点ではTacとIFXの使い分けは個々の症例に応じて決めるしかないと考えられたが,重症例においてはTacの有効性が高い傾向にあった.両薬剤間の移行は,初回治療例に比べて有効性が劣るため,副作用のリスクも考慮し,手術適応も念頭に慎重に行うべきと考えられた.
索引用語