セッション情報 ワークショップ9

炎症性腸疾患の内科的治療戦略と外科との接点

タイトル W9-2:

重症難治性潰瘍性大腸炎に対する内科的治療戦略の有用性と限界の検討

演者 吉村 直樹(社会保険中央総合病院内科)
共同演者 酒匂 美奈子(社会保険中央総合病院内科), 高添 正和(社会保険中央総合病院内科)
抄録 【目的】シクロスポリン(CsA)持続静注療法の導入により重症難治性潰瘍性大腸炎(UC)に対する手術回避率は向上したが,タクロリムス(FK506),インフリキシマブ(IFX)の適用拡大により内科治療の選択肢が増え,手術回避率の向上が期待される.今回,初期治療としてCsA,FK506,IFXを導入した重症・劇症UCの治療成績を検証し内科治療の限界について検討した.【方法】IFXが保険適用になった2010年6月以後にCsA,FK506,IFXを導入した入院を要した重症(Lichtiger’s Index≦16)・劇症(LI≧17)UC112例(重症81例:劇症31例)を対象として重症,劇症別の手術回避率を各治療群間で比較検証した.【結果】112例中77例(68.8%)が初期内科治療(導入2週後をendpoint)で寛解導入(手術回避)できた.各群間で検証するとa)CsA群63例(重症43:劇症20),b)FK506群30例(23:7),c)IFX群19例(15:4)の手術回避率はa)群43/63(68.3%),b)群21/30(70.0%),c)群13/19(68.4%)であり有意差を認めなかった.重症度別の手術回避率はa)群(重症76.7%:劇症50.0%),b)群(82.6%:28.6%),c)群(80.0%:25.0%)であり,重症例では有意差を認めないが劇症例ではCsA群の手術回避率が他の2群に比し有意に高かった(p<0.05).各群の不応例を検証するとCsA不応例は20例(重症10:劇症10)あり,重症例10例中1例は手術となったが,9例はCsA効果不十分例でありIFXの追加投与で8例は手術回避できた.劇症例は10例中9例が2週間以内に手術となったが,1例はIFXの追加投与で手術回避できた.また,FK506不応例9例(重症4:劇症5)中,重症2例と劇症2例はCsA療法への変更で,IFX不応例6例(重症3:劇症3)中,重症3例と劇症1例はCsAまたはFK506への変更で手術回避できた.【結論】重症UCの手術回避率はCsA,FK506,IFX群間で差を認めないが,初期内科治療に効果不十分な症例は他剤の追加投与で手術回避できる症例も少なくない.劇症UCの手術回避率はCsA療法が最も高いが,内科治療の限界を早期に見極め手術時期を逸しないことが重要と考えられた.
索引用語