セッション情報 ワークショップ9

炎症性腸疾患の内科的治療戦略と外科との接点

タイトル W9-6:

潰瘍性大腸炎の内科治療戦略の変化は外科治療に影響を与えたか?

演者 高橋 賢一(東北労災病院大腸肛門病センター)
共同演者 舟山 裕士(東北労災病院大腸肛門病センター), 生澤 史江(東北労災病院大腸肛門病センター)
抄録 【背景】2009年7月にタクロリムス(TAC)が,2010年6月にインフリキシマブ(IFX)が適応承認され,潰瘍性大腸炎(UC)の内科治療戦略は大きく変化した.これらの薬剤は病勢コントロールに高い有効性を示す一方で免疫機能を抑えるため,外科治療とその成績に影響を与える可能性がある.【対象と方法】2007年から2012年までに大腸全摘術を行った大腸癌合併例を除くUC症例を対象とした.TACとIFXの承認時期にあたる2010年を境に2009年以前の前期群26例と2010年以降の後期群22例に分け,両群の間で術前の治療内容と手術適応,術式選択,初回手術の成績を比較検討した.【結果】術前治療については前期群で1例のみでTACが使用されたが,後期群では15例(68%)でTACまたはIFXが使用された.手術直前のプレドニゾロン投与量は前期群で平均32.4mg/dayであったのに対し後期群では16.7mgと有意に減少した.術前のアルブミン値は前期群で平均2.6g/dl,後期群で3.2 g/dlと後期群で有意に高値であった.手術適応は前期群では77%が重症であったが後期群では50%と減少し,相対的に難治が増えていた.前期群では80%と大部分の症例で緊急・準緊急手術が行われ,3期分割手術として大腸亜全摘術が選択されたが,後期群では50%の症例が待機手術であり2期分割手術として大腸全摘兼回腸肛門吻合術が選択された.術後合併症発生率は前期群38%,後期群23%と有意差はないが減少傾向を認め,TACまたはIFXを使用された症例に限っても19%と低かった.術後平均在院日数は前期群29日,後期群23日と有意に短縮した.【考察】TAC,IFX投与例での術後合併症の増加はみられなかった.むしろ病勢コントロールによる緊急・準緊急手術の減少やステロイドの減量,全身状態の改善等を通して手術成績の向上に寄与する可能性が示唆された.
索引用語