セッション情報 ワークショップ9

炎症性腸疾患の内科的治療戦略と外科との接点

タイトル W9-17:

生物学的製剤によりクローン病の初回手術率は低下した

演者 矢野 豊(福岡大学筑紫病院消化器内科・IBDセンター)
共同演者 平井 郁仁(福岡大学筑紫病院消化器内科・IBDセンター), 松井 敏幸(福岡大学筑紫病院消化器内科・IBDセンター)
抄録 【背景・目的】クローン病(以下CD)の治療はinfliximabやadalimumab等の生物学的製剤の登場により治療体系が大きく変遷しており,特に生物学的製剤が寛解導入・維持に効果を上げている.しかし,長期的にみるとCDに対する手術が減少したか否か明らかでない.CDの長期経過例における時代別の背景因子と累積初回手術率を検討する.【対象・方法】当科で最近20年間にCDと診断された初診時未手術例424例を解析の対象とした.時代背景に関しては,診断日が1992~2001年を前期(248例),本邦で生物学的製剤が使用し始めた2002年~2011年を後期(176例)とし,診断時の病型,病態,初回手術の理由を比較した.術前治療に関しては,発症から初回手術日をEnd pointとし,生物学的製剤の投与の有無で比較した.【結果】性差は男:女が303:121で,診断時年齢は25.7±10.6歳,平均観察期間は7.7±5.9年であった.診断時の病型別では前期:小腸型が88例(35.5%),大腸型39例(15.7%),小腸大腸型121例(48.8%),後期:小腸型が50例(28.4%),大腸型39例(22.2%),小腸大腸型87例(49.4%)であり差はなかった.診断時の病態別では前期:炎症型が118例(47.6%),狭窄型93例(37.5%),瘻孔型37例(14.9%),後期:炎症型が109例(61.9%),狭窄型42例(23.9%),瘻孔型25例(14.2%)であり炎症型が有意に増加していた.(p=0.04)主な初回手術理由は前期:狭窄63.7%,瘻孔23.4%,膿瘍6.4%,穿孔4.1%,出血1.8%で,後期:狭窄76.2%,瘻孔12.7%,膿瘍7.9%,穿孔1.6%,出血1.6%であった.緊急手術の割合は前期7.2%,後期3.3%で後期が低下していた.全体の累積初回手術率は,5年,10年,15年で23.3%,43.5%,65.6%であった.術前に生物学的製剤が投与されなかった群は,5年,10年,15年で26.5%,49.8%,72.4%であったのに対し,術前に生物学的製剤が投与された群では,5年,10年,15年で10.2%,15.1%,26.5%であり,後者のほうが有意に低値であった(p<0.001).【結語】2002年以降診断症例は,2001年以前診断症例に比べ炎症型の割合が有意に増加していた.また,術前の生物学的製剤の投与は初回手術率を低下させた.
索引用語