セッション情報 ワークショップ10

過敏性腸症候群に対する新規治療法

タイトル W10-2:

陰イオン交換樹脂コレスチミドによる過敏性腸症候群の治療

演者 瓜田 純久(東邦大学総合診療・救急医学講座)
共同演者 吉峰 尚幸(東邦大学総合診療・救急医学講座), 中嶋 均(東邦大学総合診療・救急医学講座)
抄録 【背景】胆汁酸は回腸末端付近で再吸収されるが,手術などの同部位が切除された場合には,腸管循環が破綻して脂肪吸収不良を呈する.大腸内に流入した胆汁酸は大腸のcyclic AMPを活性化して水分分泌を促進するため,下痢が惹起される.一方,手術歴のない成人においても胆汁酸吸収障害(BAM)が報告されている.慢性下痢を呈するため,過敏性腸症候群(IBS)として治療されるが,BAMに気づかないため,有効な治療を受けられていない場合が多い.今回,陰イオン交換樹脂コレスチミドが有効であった慢性下痢症例の特徴について報告する.【方法】IBSの診断で治療を受けるも改善せず,当科へ紹介された62例を対象とした.13C-酢酸水素呼気試験を行い,消化管運動障害,小腸bacterial overgrowth(SIBO)を評価し,下痢型IBS18例(平均53歳:32-81歳,男女比9:9)にコレスチミドを投与した.治療前後の症状を比較検討した.【結果】コレスチミド投与にて下痢は17例(94%),腹痛および膨満感は15例(83%)で改善した.15例の著効例は投与翌日から改善し,8例(53%)は開腹歴を有していたが,7例は手術歴がなかった.手術の内訳は虫垂炎3例,胆嚢摘出術,腸閉塞による回腸切除術が各2例,胃部分切除1例であった.コレスチミド有効例は食後に症状が出現する例が14例(93%),下痢に腹痛を伴う症例は7例(47%)であり,逆に便秘となる症例はいなかった.SIBO(+)6例(40%),胃排出遅延1例(7%),胃排出短縮4例(27%)であり,口―盲腸通過時間が延長している症例はみられなかった.【結論】胆汁酸の再吸収の障害に伴う下痢は術後合併症として認識すべきであるが,手術歴のない症例にもBAMに伴うと考えられる慢性下痢が存在した.とくに朝食後に症状が強い難治性IBSのなかには胆汁酸吸収障害が発症機序である可能性もあり,コレスチミドはIBS治療における新たな治療薬として注目すべきと思われた.
索引用語