セッション情報 ワークショップ10

過敏性腸症候群に対する新規治療法

タイトル W10-3:

過敏性腸症候群患者に対するメシル酸カモスタットの効果―内臓知覚ならびに大腸運動反応を中心として―

演者 金澤 素(東北大学行動医学分野)
共同演者 福土 審(東北大学行動医学分野)
抄録 【目的】過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)患者の便中serine-protease活性はprotease activated receptor 2(PAR-2)を介して内臓知覚過敏性に関連していることが示唆されている.動物モデルにおいて,メシル酸カモスタット(30-100 mg/kg)は拘束ストレス後に誘発される内臓知覚過敏性亢進を低減させることが報告されている.我々は,メシル酸カモスタットはIBS患者の内臓知覚過敏性ならびに大腸運動反応性を正常化させるという仮説を検証した.【方法】Rome III診断基準を満たすIBS患者32例(女性16例,平均23歳)を対象とし,16例のメシル酸カモスタット服用群(600 mg/日,CM群)と16例のプラセボ服用群(P群)に無作為に振り分けた.治療14日目のIBS全般症状に関するadequate relief(AR)をプライマリー・エンドポイントとした.さらに,治療前後(服薬0日目,14日目)の症状重症度(IBS severity index),血中TNF-α,TGF-β,ACTH,cortisol値,バロスタットによる直腸伸展刺激に対する痛覚閾値ならびに安静時直腸運動を測定し比較した.また,14日目にcorticotropin-releasing hormone(CRH,2μg/kg)を静注し,投与120分までの直腸運動の変化を観察した.【成績】CM群とP群においてARの割合は有意な違いを示さなかった(38% vs. 50%).メシル酸カモスタットによって,症状重症度,痛覚閾値,直腸平滑筋トーン,収縮回数の有意な変化を認めなかった.CRH投与によってCM群,P群ともに有意に収縮回数が増加した(0.5 to 1.9 vs. 1.0 to 2.8回/10分)が,両群間で有意な変化の違いを認めなかった.【結論】メシル酸カモスタットによって約4割の患者にIBS症状の改善を認めたが,その有効性はプラセボと同等であった.高用量を用いた動物実験と異なり,600 mg/日のメシル酸カモスタットはIBS患者の内臓知覚,大腸運動反応を変化させなかった.今後,IBSに対するプロテアーゼ阻害薬の効果に関するさらなる研究が期待される.
索引用語