セッション情報 ワークショップ10

過敏性腸症候群に対する新規治療法

タイトル W10-6:

認知機能アセスメントを活かした過敏性腸症候群の治療―WAIS-IIIを利用した心理社会的アプローチ―

演者 小山 憲一郎(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野)
共同演者 浅川 明弘(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野), 乾 明夫(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野)
抄録  過敏性腸症候群(以下IBS)はストレス関連疾患の代表である.他の器質的消化器疾患患者や健常群との比較において,IBS患者はストレスを高く感じる傾向が報告されている(Blanchard EB,2001).
 思春期,青年期の学生においては,症状の増悪がいじめや不登校など生活環境問題と関係していることがよく経験される.以前,不登校に付随したIBSの背景に学習障害的な能力の偏りがあり,学業そのものがストレス化し,IBS症状を増悪させていた症例を経験した.その症例に対して通常の心身医学,認知行動療法的アプローチに加え,Wechsler Adult Intelligent Scale-III(以下WAIS-III)による認知機能の把握に基づき学校,両親と連携し環境調整をしたソーシャルワーク的治療の経過を報告した.その後も,思春期青年期の症例のみならず,様々な年代で,社会生活の不適応をストレスとして訴えるIBSの症例を度々経験し,WAIS-IIIを実施してきた.WAIS-IIIで測定できる認知機能は全検査IQ,言語性IQ,動作性IQ,さらに下位項目として言語理解,知覚統合,作業記憶,処理速度である.経験的には個々人の認知機能の中で特異的な能力の偏りがあり,それによって仕事や学校生活に上手く適応できていない症例が多いように思われる.我々はこの結果を元にその後の心理社会的アプローチの方向性を検討してきた.
 認知機能の偏りの問題を症例が自覚し,それを補完するような工夫をすることや,症例を取り巻く周囲の人物に周知されることによって仕事や学習の内容,方法,分量などが整えられることが,IBS患者の心理社会的アプローチとして功を奏することは少なくない.さらにIBSにうつや不安が合併することもよく知られているが,最近の研究では認知機能の偏りが社交不安に影響していることも報告されている.この様なことを踏まえるとIBSの治療をしていく際に,認知機能をアセスメントしておくことが心理社会的アプローチの方法を検討する上で有用な視点の一つであると考えられる.
索引用語