セッション情報 ワークショップ7(消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器疾患と性差

タイトル 消W7-6:

H. pylori感染胃発癌モデルにおける胃粘膜免疫応答に対するエストロゲンの影響

演者 大谷 昌弘(福井大附属病院・消化器内科)
共同演者 須藤 弘之(福井大附属病院・消化器内科), 中本 安成(福井大附属病院・消化器内科)
抄録 【目的】胃癌の罹患率は男性が女性に比べて約2倍高く、疫学的検討では女性ホルモンが胃癌発症に対し予防的に作用する可能性が示唆されているものの、未だ一定の見解は得られてはいない。H. pylori(HP)感染INS-GASマウスは雄に有意に分化型胃癌が発症するモデルであり、我々はこれまでに卵巣摘出が胃粘膜のdysplasiaを促進し、その機序にエストロゲンが関与していることを報告した。HP感染によりTh1とTh17反応が誘導されることが明らかになっており、今回我々はエストロゲンによる免疫応答調節が胃炎・発癌抑制に作用すると仮説を立て、エストロゲンがINS-GASマウスの胃粘膜の免疫応答に及ぼす影響について検討を行った。【方法】雄INS-GASマウスを17β-estradiol投与群 (E2)、精巣摘出群(C)と対照群に分け、HPSS1感染(またはsham)4ヶ月後に、病理組織学的検討、抗HP IgG2a・IgG1抗体価測定(ELISA法)、胃組織からRNAを抽出し、炎症性サイトカインとしてIFN-γ、IL-1βとIL-17A、抗炎症性サイトカインとしてIL-10、制御性T細胞のマーカーとしてFoxp3のmRNAレベルをreal-time PCR法で解析を行った。【成績】感染INS-GASマウスは非感染群と比べて強度の体部胃炎を生じており、病理組織学的検討では感染・非感染マウス両方においてE2群のdysplasiaは対照群に比べて有意に抑制されていたが、C群と対照群の間にdysplasia scoreの差は認めなかった。またE2群は対照群と比較してIgG1抗体価が高値であった。real-time PCRによる解析では、非感染E2群は対照群と比較して有意差をもってFoxp3とIL-10が高値、かつIL-1βが低値であった。一方、感染E2群は対照群と比較して有意にIL-10が高値、かつIFN-γとIL-1βは低値であった。また感染E2群におけるIL-17Aは対照群と比べて低い傾向を認めた。【結論】INS-GAS マウスに対するE2の投与はFoxp3陽性制御性T細胞の増加、サイトカインの発現調節やTh2反応への誘導などを介して抗炎症性に働き、dysplasia抑制機序の一端として作用している可能性が示唆された。
索引用語 エストロゲン, H. pylori