抄録 |
【目的】高齢者大腸癌術後90日以内死亡例の特徴を検討した.【方法】2002年1月より2012年6月までに当院にて外科療法を実施した大腸癌295例を若中年83例,前期高齢者(65歳以上75歳未満)91例,後期高齢者(75歳以上)121例の3群に分類し術後90日以内死亡例を後ろ向きに比較検討した.男性147例(49.8%),平均年齢70.9歳(35-98歳)であった.【成績】若中年をA群,前期高齢者をB群,後期高齢者をC群とすると,術後90日以内死亡例はA群で2例(2.4%),B群で3例(3.3%),C群で15例(12.4%)であった.A-B群間では有意差を認めなかったがA-C群,B-C群間では各々p=0.0112,p=0.0186と有意差を認めた.C群の死亡原因は,肺炎が8例(53%),心疾患が3例(心不全,心筋梗塞),癌性腹膜炎が2例,肝不全が1例,高血糖昏睡が1例であり,呼吸器・循環器疾患が全体の11例(73%)を占めた.15例中1例のみは生存退院したが,14例は入院中死亡された.A-C群での術前状態は,性別,症状,部位,形態,深達度,病理組織分類,Dukes分類,Stage分類,術式に関し有意差を認めなかったが,アルブミンがA,C群で各々4.20±0.4g/dL,3.77±0.5g/dLでp<0.0001,コリンエステラーゼが284.0±72.9U/L,227.3±79.3U/Lでp<0.0001とC群で低栄養状態であった.B-C群の術前状態で有意差を認めたのは,部位,Stage分類,術式,栄養状態であった.直腸癌がB,C群で各々39例(42.9%),30例(24.8%)でp=0.0055,StageIII,IVが各々44例(48.4%),42例(34.7%)でp=0.0453,直腸関連術式が各々37例(40.7%),28例(23.1%)でp=0.0062,アルブミンが各々4.05±0.5g/dL,3.77±0.5g/dLでp<0.0001,コリンエステラーゼが277.6±102.2U/L,227.3±79.3U/Lでp=0.0001であった.B群とC群の比較では,C群で直腸癌,StageIII,IV,直腸関連術式が少なく,低栄養状態であった.【結論】大腸癌の根治治療としては外科療法が第一であるが,後期高齢者は若中年,前期高齢者と比較して低栄養状態であり術後90日以内死亡率が高いため,術前栄養状態の改善と呼吸器・循環器領域の術後ケアが大切であり,リスクが高い症例には無理な手術を避け,緩和ケアを中心とする方法を考慮することも肝要である. |