抄録 |
機能性消化管障害の性差に関しては古くより議論が存在する。我が国では、消化性潰瘍など上部消化管の器質的疾患の頻度は男性に多く、また保険制度の問題もあり、必然的に医療機関を受診する器質的疾患のない機能性ディスペプシア(FD)患者は女性の比率が高くなるが、実態は不明である。しかし、生理周期などにあわせて消化管症状を呈するなど女性特有の消化管症状が存在することも確かである(Hutson et al. Gastroenterology 1989)。そこで、今回は機能性ディスペプシアの性差に注目し、遺伝子型よりその相違につき検討した。【方法】すでに機能性ディスペプシアへの関与を検討した遺伝子の中から、H. pylori(HP)感染による炎症の影響を受けない分子として、恒常性に関与するPTGS1、酸分泌に関与するHRH2、内臓痛感知に関与するSCN10Aに存在するvariationにつき、性別に機能性ディスペプシアへの関与につき検討した。【結果】検討した時期が異なるため、それぞれのcases-controlsの母集団は異なるが、FD群では女性の比率が高く、H. pylori感染率は低値であった。全体ではSCN10Aの機能低下性haplotypeはFDの有意な抑制因子であった(OR, 0.618; 95%CI, 0.448-0.853; p=0.0034)が、PTGS1 -1676C>T、HRH2 -1018G>AのFDへの有意な関与は認めなかった。性差別の検討では、SCN10Aは男性・女性ともに同程度にFDへの関与を認め(OR, 0.628; 95%CI, 0.399-0.988; p=0.044 and OR, 0.625; 95%CI, 0.393-0.993; p=0.047)、HRH2 -1018 G>Aは性別の検討でも有意なFDへの関与は認めなかった。一方、PTGS1 -1676T allele carrierは女性においてのみ有意なFDの危険因子であり(OR, 2.70; 95%CI, 1.04-6.99; p=0.041)、特にEPSへの関与を認めた(OR, 4.07; 95%CI, 1.15-14.4; p=0.029)。【結語】今回の検討からは、PTGS1 -1676C>Tが女性特有のFDへの関与因子と考えられた。実際に性ホルモンが消化管運動に関与し、その一部はprostaglandinを介しているとの報告もあり(Wang et al. World J Gastroenterol 2003)、女性特有のFDの病態が推定された。 |